artscapeレビュー

2014年10月15日号のレビュー/プレビュー

いくしゅん「愛。ただ愛」

会期:2014/09/14~2014/09/28

FUKUGAN GALLERY[大阪府]

不快な写真の中に、ものすごく美しい色彩や愛らしい写真がまじっているおかげで中和されているが、基本的にはあまり気持ちのよい瞬間の写真ではないところに魅力があるのかもしれない。「(ファインダー越しに)セレクトしているので、撮ってからボツにするということはほとんどないです」と作家は話していたので、彼のセンサーが、かなりの雑食さで反応しているということは確かなのだけど……。
ところで、過去の作品で、顔にパックをしている女性が映っている写真は、本当に魅力的な瞬間だと思う。足下にはゲーム機、コードを踏んでいて、充電のケーブルがつながった電話で会話をしている。(過去の展覧会のDMでは、この写真に展覧会タイトル「ですよねー。」が書かれていた。これも絶妙だ)

2014/09/27(土)(松永大地)

鎌田友介「ヴェネチアビエンナーレ2014のいくつかの飛躍と帰結」

会期:2014/09/27

blanClass[神奈川県]

blanClassにて、鎌田友介の展覧会/イベント「ヴェネツィア・ビエンナーレ2014のいくつかの飛躍と帰結」を見る。本人が以前から継続する戦争と建築のリサーチ・プロジェクトを、今回はヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展2014の内容(1914年という起点やエレメンツなど)に絡める。とりわけ、今回はアントニン・レーモンドが関わった米軍の焼夷弾実験のためにつくられた家屋を題材に、その模型の破壊と記録のズレをライブ的に行う。


展示風景

2014/09/27(土)(五十嵐太郎)

佐藤春菜「いちのひ」

会期:2014/09/19~2014/09/28

Gallery街道[東京都]

東京杉並区の青梅街道沿いにあるGallery街道が、建物の取り壊しのため11月にクローズすることになった。尾仲浩二が同じ場所に開設したのが2007年。その後、佐藤春菜と松谷友美が共同運営したGallery街道りぼん(2010年)の時期を経て、2011年からは再び佐藤を中心に前と同じ名前で活動するようになった。ごく普通の木造アパートの2階部分という立地条件が珍しいだけでなく、企画もしっかりしていて、なかなか居心地のいい空間だったので、なくなるのは残念だ。だが、自主運営ギャラリーは長く続ければいいというわけではないので、そろそろ潮時ということだろうか。長くかかわってきた佐藤にとっても、いい転機になるのではないだろうか。
その佐藤は、このところずっと「いちのひ」というシリーズを発表している。毎月1日(いちのひ)に撮影した写真をまとめで見せるという試みで、今回は2013年5月~2014年2月分の写真、約60枚が展示されていた。六つ切りサイズにプリントされたモノクローム写真が淡々と並んでおり、日付が写し込まれているのでたしかにその日に撮影したとわかるのだが、内容的には取り立てて特別な場所や出来事が写っているわけではない。だが、その適度に力が抜けた写真のたたずまいが、いい感じにまとまってきているように感じた。長く続けていくことによって「自分の見方」が浮かび上がってくるというだけではなく、スナップシューターとしての日々の鍛錬の成果がきちんと形になりつつある。
この「いちのひ」以外にも、デジカメで撮影している「Tokyo Action」というシリーズも継続中ということなので、両方をあわせて見る機会もつくってほしい。また、そろそろスナップ以外の手法にもチャレンジしていってほしいものだ。

2014/09/28(日)(飯沢耕太郎)

ERIC『EYE OF THE VORTEX』

発行所:赤々舎

発行日:2014年9月8日

東京・銀座のガーディアン・ガーデンで開催されたERICの個展「Eye of the Vortex/ 渦の眼」(2014年9月8日~25日)を見逃したのは残念だった。秋は展覧会が立て込んでいるので、ついうっかり忘れてしまうことがよくある。
だが、同時期に発売された同名の写真集を見ることができた。展示で確認することはできなかったが、明らかにERICの撮影のスタイルがかわりつつある。これまで彼が日本や中国で撮影してきた路上スナップでは、6x7判のカメラのシャープな描写力を生かして、近距離から獲物に飛びつくようにシャッターを切っていた。時には白昼ストロボを発光させることもあり、鮮やかなコントラストの画面は、群衆の中から浮き出してくる“個”としての人物たちの、むき出しの生命力を捉えきっていた。だが、今回インドを舞台に撮影された『EYE OF THE VORTEX』のシリーズでは、カメラのフォーマットが35ミリサイズに変わったこともあり、より融通無碍なカメラアングルをとるようになった。被写体との距離感も一定ではなく、かなり遠くからシャッターを切っている写真もある。正面向きの人物だけではなく、横向き、後ろ向き、あるいは人物が写っていないカットまである。
このような変化は、やはりインドという「めくるめく混沌」の地を撮影場所に選んだことによるのだろう。また、香港から日本に来て写真家として活動し始めてから10年以上が過ぎ、彼の眼差しがさまざまなシチュエーションに対応できる柔軟性を備え始めているということでもある。さらに、路上スナップの方法論を研ぎ澄ませていけば、写真による「群衆論」の新たな可能性が開けてくるのではないだろうか。

2014/09/28(日)(飯沢耕太郎)

被災地めぐり

会期:2014/09/28

[宮城県]

久しぶりに仙台を起点に、雄勝、女川、石巻エリアをまわる。雄勝の中心部は被災建物を除去したため、街の痕跡が完全に消えていた。一方、ゆっくりと各浜の復興が動く。以前の津波災害後につくられた復興住宅も、とり壊されるらしいのだが、これは歴史の証言者として残していいのではかと思う。


左:雄勝の復興住宅
右:雄勝風景

女川では、女川サプリメントの建物がすでに解体され、江島共済会館も壊される見込みである。結局、震災遺構としては交番だけが残る予定だ。震災20日後にここに訪れたときは、横倒しになった江島共済会館を探すのに、30分以上かかるほど、街が破壊され尽くされており、カオスの状態だった。しかし、今やこれくらいしか破壊の記憶を伝える目立つものが残っていないのは皮肉である。女川のかさ上げは相当な高さだった。一方、ここは海沿いに新しい水産関係の施設がどんどん作られ、運動公園にも復興住宅群が完成していた。また坂茂の設計による新しい駅舎もだいぶできており、他の被災地に比べてスピードが早い。そして石巻では、被災した自由の女神や木造教会(移築予定)がなくなっていた。


女川 江島共済会館

記事左上:坂茂設計の女川駅駅舎模型

2014/09/28(日)(五十嵐太郎)

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