artscapeレビュー

呉夏枝「-仮想の島- grandmother island 第1章」

2017年04月15日号

会期:2017/03/04~2017/03/25

MATSUO MEGUMI +VOICE GALLERY pfs/w[京都府]

その出自と布や織物という扱う素材から、ディアスポラとフェミニズムの交差する地点に呉夏枝(お・はぢ)を位置づけることは難しくない。しかし彼女の作品は、図式的な理解に収まらない静謐な詩情を湛えている。
本個展では、「海に浮かぶ島」をモチーフとした染織作品が発表された。「島」のイメージの源泉には、祖母の出身地であり、呉自身も後年に訪れた韓国の済州島があるのだろう。だがよく見ると、織られた島のシルエットはそれぞれ異なり、単一の具体的な島の表現ではないようだ。織物自体が持つ、長い年月を経て受け継がれた古色のような風合いも相まって、それは遠い記憶の中で浮き沈みを繰り返す、おぼろげで到達できない地を思わせる。また、島と海に映る島影は、昼でも夜でもあるような境界の時間を生きているようだ。
「島」という言葉は、楽園的なイメージを持つ一方で、孤独や閉鎖性、非中心・周縁性といったイメージも想起させる。だが布に織られた島どうしは、空間を横切る何本もの糸でインスタレーションとして繋がり合い、閉じながらも半ばネットワーク状に開かれていることを示唆する。島から島への航路の軌跡や航海図を立体化したようにも見える。見る者の身体は、想像上の海の中を歩き回る。島から島へ、土地から土地への旅。垂れ下がった糸はまた、三つ編みのおさげ髪のように編まれ、女性の身体性(とその不在)も想起させる。織られた島は、不在の「彼女」の身体と繋がり、「彼女」の身体は確かに島の一部でもあるのだ。
本個展は、「grandmother island」という仮想の島の名を冠したプロジェクトの第1章として構想されている。本展の後、プロジェクトは、ワークショップや展覧会を重ねて、仮想の島やそこへつながる海路を見出していくという。これからの展開が非常に楽しみだ。

2017/03/25(土)(高嶋慈)

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