artscapeレビュー
奈良原一高「華麗なる闇 漆黒の時間(とき)」
2017年04月15日号
会期:2017/03/10~2017/04/24
キヤノンギャラリーS[東京都]
長期の入院が続く奈良原一高だが、奈良原一高アーカイブズ(代表・奈良原恵子)の手によって、出版や展覧会の企画が相次いでいる。写真と文章の代表作を集成した『太陽の肖像』(白水社、2016)に続いて、東京・品川のキヤノンギャラリーSでは「華麗なる闇 漆黒の時間(とき)」展が開催された。1965年に初めて訪れて以来、その魅力に取り憑かれて80年代まで撮影し続けた「ヴェネツィアの夜」のシリーズと、1960年代初頭のヨーロッパ長期滞在から帰国後に、日本の伝統文化をむしろエキゾチックな視点で捉え直した意欲作「ジャパネスク」(「刀」、「能」、「禅」の3シリーズ)をカップリングした展示である。
長年にわたって奈良原とコンビを組んできたグラフィック・デザイナー、勝井三雄が手掛けた会場構成(作品セレクトも)が素晴らしい。オリジナル・プリントからスキャニングしたというモノクローム印画を、通常よりやや高めに展示することで、シンプルだが力強い視覚的な効果を生み出していた。サン・マルコ広場に面する店の窓の灯りを捉えた連作は、小部屋の仕切りの中に封じ込めるように並べ、アルミフレームの縁の部分は目立たないように黒く塗るなど、展示全体に細やかな配慮がなされている。明確な展示プランによって、もともと奈良原の写真に内在していた「闇」への志向性を引き出した、クオリティの高いインスタレーションとして成立していた。島根県立美術館の「手のなかの空──奈良原一高1954-2004」(2010)に続く、本格的な回顧展も、そろそろ企画されていい時期だろう。それとともに、雑誌掲載の作品などをもう一度洗い直した「全作品集」の刊行も期待したい。
2017/03/15(水)(飯沢耕太郎)