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artscapeレビュー

潮田登久子「BIBLIOTHECA/ 本の景色」

2017年04月15日号

会期:2017/03/08~2017/04/28

PGI[東京都]

「本の景色」はなぜか懐かしく、気持ちを落ち着かせる。僕自身が、つねに本の近くにいる生活を送っているためもあるのだが、書籍がそこにあると、古い友達や家族と一緒にいるような安心感を感じるのだ。だが、潮田登久子の写真集「本の景色“BIBLIOTHECA”」シリーズの完結を受けて、PGIで開催された展覧会を見て感じたのは、むしろ「本という物質」の奇妙な存在感だった。
『みすず書房旧社屋』(幻戯書房)、『先生のアトリエ』(USIOMADA)、『本の景色』(同)の3部作のうち、今回展示されたのは『先生のアトリエ』、『本の景色』からピックアップされた作品である。『先生のアトリエ』の「先生」というのは、潮田の桑沢デザイン研究所時代の恩師だった大辻清司で、写真には彼の自宅の地下にあったアトリエの本棚や机の周辺が写っている。『本の景色』のほうは、さらに撮影の範囲を広げて、早稲田大学図書館、国立国会図書館などの資料保存室、古書店、昆虫学者の書斎などに所蔵されている書物の佇まいにカメラを向ける。そこから見えてくるのは、本を構成する紙や皮などが、経年変化によって捲れたり、ふくれたり、破れたりしているありさまだ。紙魚や白蟻によって無数の、不思議な形の穴が空いてしまった書籍、湿気を吸って黴を呼び、ボロボロに崩れかけている紙の束、そこには思いがけない姿に変容しつつある「本という物質」のさまざまなあり方が、6×6判のカメラで緻密に、だが押しつけがましくない、ほどよい距離感を保って写しとられていた。
写真集の出来栄えも素晴らしい。特に『本の景色』は印刷、デザインも含めて贅沢な造本である(編集・デザインは島尾伸三)。20年以上の時間をかけた労作が、それぞれのかたちで写真集として結実したのはとてもよかったと思う。なお、同時期に原宿・表参道ヒルズ同潤館のGalerie412でも「本の景色“BIBLIOTHECA” 潮田登久子/出版記念写真展」(3月1日~18日)が開催された。規模は小さいが、3部作を万遍なくフォローしている。

2017/03/09(木)(飯沢耕太郎)

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