2020年03月15日号
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artscapeレビュー

大西みつぐ「標準街景」

2010年10月15日号

会期:2010/09/01~2010/09/14

銀座ニコンサロン[東京都]

2000年代以降の写真において大きく変わったのは、いうまでもなくデジタル化の全面的な浸透だが、もうひとつ見逃せないのは、街頭スナップの撮影と発表がとても難しくなってきていることだ。かつて、ニコンサロンのような会場で展示される写真の大部分をスナップショットが占めていた。ところが近年、その比率が極端に下がってきているのだ。むろん、「肖像権」というような言葉が一人歩きすることで、撮る側も撮られる側も過剰反応しているのがその大きな理由だろう。東京の下町の路上の光景にずっとカメラを向け続けてきた大西みつぐのような写真家にとって、このような「気難しい時代」の状況は看過できないものがあるのではないだろうか。
大西が銀座ニコンサロンで開催した「標準街景」展には、そんな彼の危機意識と問題提起の意志が明確にあらわれていた。A3判に引き伸ばされた58点の写真は、まさに彼や他の写真家たちが積み上げてきた、「標準」的な街頭スナップの手法で撮影・プリントされている。偶発性に身をまかせつつ、路上で同時発生的に起こる出来事を、一望するように的確にフレーミングし、見事なバランス感覚で画面におさめていく──その腕の冴えはある意味で職人的な完成度に達しているといえるだろう。大西は写真展に寄せたコメントで「急速に写真家の都市における表現の場としての『路上』が遠ざかりつつある」時代だからこそ、「万難を排して、わたしたちの記憶としてのカメラで記されていかなければならない」と書いている。この「万難を排して」という部分に、彼の写真家としてのぎりぎりの決意表明を見ることができそうだ。目を愉しませつつも、どこかきりりと居住まいを正させてくれるような写真群だった。

2010/09/14(火)(飯沢耕太郎)

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