2020年07月01日号
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artscapeレビュー

内田樹『下流志向』

2010年10月15日号

発行所:講談社

発行日:2007年1月

著者と対談する機会があり、まとめて何冊か再読したり、新たに読んだ。正直、『下流志向』は、セールス的には売れる書名だろうが、三浦展『下流社会』にあやかったようなタイトルで避けていた。しかし、今回手にとって読んでみると、乾久美子さんが推薦していたとおり、確かにおもしろい。現代の日本では、自らの意思で知識や技術の習得を拒否し、階層降下していく子どもが(史上初めて?)出現したという。内田は、それは子どもが最初から消費主体として形成されるからだと考察する。本書は、内田の著作『こんな日本でよかったね』でも触れていたテーマをふくらませた教育論だが、筆者の経験に照らし合わせても、共感できる部分が多い。一番納得したのは、「学校で身につけるもののうちもっとも重要な『学ぶ能力』は、『能力を向上させる能力』というメタ能力」だという指摘だ。つまり、数値で計測できる知識や技術の習得ではない。本書は、グローバリズムやアメリカ的な成果主義を批判する一方、ある意味では前近代的なコミュニケーションの復活も唱えている。近年、宮台真司や東浩紀も父として発言することから、こうした立場に近づいているのを考えると、興味深い同時代の現象だ。内田が直接的に建築に触れることはないが、現代の住宅は家族だけで構成されており、他者がいないという主張は、プログラム論に接続するだろう。実際に内田氏と彼の自邸+道場を設計中の光嶋裕介氏を交え、トークを行ない、感心させられたのは、自らの本で述べていることを実践していること。カタログから建築家を選ぶのではなく、たまたまの出会いから若手建築家に設計をぽんと依頼したこと。そして(構造主義的に?)他者が考える内田の家を受け入れつつ、パブリックを内包し、まちに還元するみんなの家をめざしていること。このドキュメントも書籍化されるらしく、建築の完成と出版が楽しみである。

2010/09/30(木)(五十嵐太郎)

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