artscapeレビュー
小沢さかえ展 指先から銀河
2010年10月15日号
会期:2010/09/03~2010/09/20
カフェ&ギャラリーアトリエとも[京都府]
「スコップ・プロジェクト」第三回目の企画展。いわゆるホワイトキューブではなく、黒板の壁面やガラス扉のショーケース、壁に作り付けの棚などがある会場。絵画の展示の場合はとりわけ作家を悩ませそうなスペースでもある。しかし小沢はそんな空間の特徴も見事に自らの作品世界の一要素としてとりこみ、むしろ水を得た魚のようにいきいきと、魅力的な作品空間を創出した。色とりどりのプッシュピンやマグネット、チョークなどを用い、いくつもの星図を配した黒板壁面のドローイング《夜のみた夢》には、木にもたれかかる少女や動植物なども描かれたのだが、足下を照らすスポットの下で見るこの作品は想像以上に表情豊かであり、更けゆく夜空の有様のように、見る時間帯によって印象が異なるものであった。夕方頃は特に、黒い黒板に描かれた線や光の表現が際立ち、画面に不思議な奥行きが感じられる。その反対側の凹みのある壁面にぴったりとはめ込まれるように展示された作品は、今展のために制作された幅3.6メートルの大作《指先から銀河》。描かれた少女の手のひらに載る光の粒が、星座線として画面の上方にのびているのだが、その線は見る者を幻想的な物語へと導くように、後方の黒板のドローイングのイメージとつながっていく。濃紺の夜空と、その暗闇のなかで発光するような森の植物の色彩もさることながら、画面の隅でとぐろを巻く透明な蛇の姿は特に、背景と形が解け合う不思議な趣を漂わせて美しかった。想像力を自由に駆け巡らせることは才能でもあるが、それを表現として発揮することはさらに高度な技でもある。幻想的なその世界観を遊び心いっぱいに繰り広げた今展、他では見られない個展となった。
2010/09/03(金)(酒井千穂)