artscapeレビュー

田中幹 展

2010年10月15日号

会期:2010/09/10~2010/09/25

乙画廊[大阪府]

0という数字にこだわり、以前から、数字の0の小さなゴムスタンプを延々と反復押印した手法の作品を発表している田中幹の個展。小さなギャラリーの扉を開けると、スペースの壁面に収まりきらないほどの大きな作品が視界に飛び込んでくる。キャンバスには、無数の「0」のスタンプが油絵の具で押印されているのだが、あまりにもびっしりと重なり、画面全体に緩やかにグラデーションをつくっているので、ぱっと見ただけではどのような状態なのかわからなかった。近づいてよくみるとその夥しい数が確認できて驚く。絵の具で押されたスタンプは、少しずつ重なり、それぞれの境界線をつぶしながらつながって、0の形が消失していく。絵の具の重なりで表面はぼこぼこと盛り上がっているのだが、スタンプの0の集積がただ一色の色へと移っていくその有様は虫の大群かなにかが蠢めいているかのような迫力。今展では何層もの樹脂の層の中に無数の0を閉じ込めたような新作も発表された。長方形や円形などいくつかの形状のこの作品は、樹脂の層ごとにスタンプを押印するという作業の繰り返しでつくられているそうで、立体的な作品だ。表面から樹脂の層の奥へと視線が誘われて目が釘付けになっていく。空間的な奥行きに時間を取り込み、無限の広がりを感じさせるミニマルな作品は宗教的な深みも感じるのが興味深い。次回以降の展開も楽しみだ。

2010/09/11(土)(酒井千穂)

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