artscapeレビュー
入谷葉子展「縁側ララバイ」
2010年10月15日号
会期:2010/08/31~2010/09/12
neutron kyoto[京都府]
現在東京で同名の個展を開催中の入谷葉子の京都での新作の発表。かつて家族と暮らした自宅やその身近な風景など、思い出のイメージを過去の写真と自らの記憶をもとに、色鉛筆による色面で塗り絵のように再現している。会場には、昔の自宅の応接間をモチーフにした大作や、墓地を描いた作品をメインに、通学電車の車窓から見える風景や子ども用のビニールプールを描いた小作品なども展示されていた。今展には過去の記憶を辿って取材に出かけ、その場で新たに撮影したという写真から描いたものもあるのだが、入谷は身体的な感覚も含め、自らの記憶のイメージと現在のありさま、そのギャップという、隔たった時間をない交ぜにして表現する。描かれるものはごく個人的な思い出であり、他人には共有できない閉鎖的な世界であるのだが、しかし入谷の作品には、いつもなんとなく気持ちが引き寄せられる。モチーフが見覚えのある道具であったりごくポピュラーな生活スタイルのイメージであったりすることや、色彩のインパクトのせいも大きいのだが、ただそれよりも、それらの記憶のイメージの断片を継ぎ接ぎするような色面の構成や画面の余白、それらのどこか不安定な印象と違和感に、見る者は共感するのかもしれないと今展で感じた。“いま”という状況が永遠ではなく、つねに変化している有限の時間にあるということ、季節や環境の変化によって知る有限の時間の切なさや美しい一瞬が共通の記憶として引き出されるのだ。
2010/09/06(月)(酒井千穂)