2020年03月15日号
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artscapeレビュー

伊賀美和子「悲しき玩具」

2010年10月15日号

会期:2010/10/01~2010/11/10

BASE GALLERY[東京都]

1999年の「写真新世紀」で優秀賞(南條史生選)を受賞した「マダムキューカンバ」以来、伊賀美和子は一貫して画面に人形やオブジェを配置して撮影する、「コンストラクテッド・フォト」を発表し続けてきた。どちらかというと日本の写真家たちは、演劇的、構築的な要素を写真に取り込むことを避けることが多い。「リアリズム」の伝統が、まだまだ彼らを縛りつけているともいえる。その意味では、伊賀の試みは貴重なものであり、もっと注目を集めてもよいのではないかと思う。
今回の「悲しき玩具」のシリーズは、以前の作品とはかなり趣が違ってきている。以前は、物語性を感じさせるシチュエーションが設定され、「家族」や「結婚」といった社会的な制度に対するシニカルな悪意が強調されていた。だが、今回はそういった側面は背後に退き、柔らかな光に包まれてクローズアップで撮影されたオブジェの作品は、一点一点が穏やかに自立している。どちらかといえば、人生の個々の場面から切り出された断片から、いやおうなしに滲み出てくる悲哀感に焦点が合わされているといえるだろう。デビューから10年以上を経て、人形たちの世界も少しずつ変質し、成熟の時を迎えつつあるといえそうだ。とはいえ、人形のつるりとした皮膚が醸し出す危ういエロティシズムは健在で、クローズアップが増えた分、その強度も増しているようにも感じられた。

2010/10/01(金)(飯沢耕太郎)

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