artscapeレビュー

2012年06月15日号のレビュー/プレビュー

森田麻祐子 展“We're in the tropics”

会期:2012/05/07~2012/05/19

橘画廊[大阪府]

森田麻祐子の個展。油彩画がメインだが、今展の作品イメージの映像や洋服も展示された空間は、全体がひとつのインスタレーションにもなっている。海辺に寝そべって読書をしている少女や、金髪の少年などをモチーフに描いた作品の隣には、カラフルな色面だけで構成した画面の作品も並んでいた。はじめはそれらがなにかわらなかったのだが、聞いてみると各作品の色彩バランスや画面上のおおまかな色の配置などを示した《色地図》という記号的な作品だった。双眼鏡を覗き込む少女の視線の方向には、円形が二つ並んでいたり、描かれた模様と同じ色や形が画面に散りばめられていたりと、全体のイメージはまったく違うのだが、パズルを組み合わせるようで面白い。一見、かわいらしいイメージの作品にはぐらかされる感じもあるのだが、それも森田の作品の魅力でニクいところ。



展示風景


2012/05/18(金)(酒井千穂)

大西みつぐ「近所論 臨に曝す」

会期:2012/05/08~2012/05/20

TOTEM POLE PHOTO GALLERY[東京都]

「近所論」(2009)、「続近所論」(2010)、「臨海 風景の被爆」(2011)など、近作を中心にした展示。ピンホール・タイプのポラロイド・フィルムや青色に発色するブルネオジアゾ感光紙を使用し、セルフポートレートを試みたり、身体の一部を画面の中に取り入れたりするなど、一見すると遊戯的、実験的な作品群に見える。だが、会場に掲げられた大西の次のコメントを読むと、彼の本気度が伝わってくる。
「この地は、すでに次の闘いを強いられている。/あるいはとっくにそれは始まっている。/身体をじっくりここに曝すこと、/生きていく上での覚悟、、、、、/東京湾最深部、臨海。」
この切迫した語調は、明らかに「3・11以後の近隣環境のささいな変貌」に対応しているのだろう。これまでの大西の作品のような、被写体を柔らかに包み込むような余裕はかなぐり捨てられ、生真面目な「生きていく上での覚悟」を問う姿勢が前面に出てきている。ピーカンの強烈な光に照らし出された湾岸の街の光景を、鮮烈なモノクローム・プリントに定着した「臨海 風景の被爆」のシリーズなど、自分が「ここにいる」という存在の痕跡を刻みつけておかなければならないという強い意志と緊張感を感じる。この継ぎはぎだらけの展示から、揺るぎない何かがかたちをとってくるのだろうか。

2012/05/19(土)(飯沢耕太郎)

笹岡啓子「久万山真景」

会期:2012/05/08~2012/05/20

photographers' gallery/ KULA PHOTO GALLERY[東京都]

久万高原町は愛媛県中南部に位置し、平均標高800メートルという山間の町だ。笹岡啓子は町立久万美術館で2009年に開催された萱原里砂、高橋あいとの3人展「歸去來兮(かへりなんいざ)」のため、2008年にこの町の風景を撮影した。そのときの作品を再構成して展示したのが、今回photographers’ galleryとKULA PHOTO GALLERYで開催された個展「久万山真景」である。
笹岡の6×6判のフォーマットの写真は、例によって痒い所に手が届くように、細やかに山や河や岩の多い久万の眺めを写しとっている。自然だけではなく、農地や山を切り崩す工事現場などにもカメラを向ける。タイトルの「真景」というのは、江戸時代末期に旅の絵師、遠藤広実が描いた全3巻の絵巻物「久万山真景絵巻」を踏まえているようだ。やはり久万美術館に収蔵されているこの絵もまた、久万の風景を丁寧に、その細部にまで目を凝らして描き出したものだ。笹岡はこの絵巻物の描法を意識しつつ、写真特有の公平で滑らかな視線を活かし切って作品化した。ただ、展示作品はすべて2008年、つまり4年前に撮影されたものだけなので、この仕事が完成したものなのか、それとも続きがあるのかがよくわからない。もう少し長いスパンで撮影していくことで、さらに厚みのあるシリーズに成長していくのではないかと思う。

2012/05/19(土)(飯沢耕太郎)

廣田美乃 展

[京都府]

大学在学中に初個展を開催してから3回目の発表となる廣田美乃の個展。日常の些細な感情や出来事をモチーフに、少年や少女をシンプルな色彩で描いたその作品は、どこか寂寞とした雰囲気もあり気持ちにひっかかる。同時開催中だったもうひとつの個展会場は古書店だったのだが、壁面に並んでいた小さな作品は、ホワイトキューブの空間で見るのとはまた異なる印象だったので少し驚いた。色や筆致は平坦なのだが、テクニックやタイトルの魅力が以前よりも増して、繊細な感情の振れ幅が感じられるものに仕上がっていた。

ギャラリーモーニング:http://gallerymorningkyoto.com/2012exhibition/hirotayoshino2012.html
会期:2012/05/15~2012/05/27

レティシア書房:http://book-laetitia.mond.jp/
会期:2012/05/08~2012/05/20


展示風景

2012/05/20(日)(酒井千穂)

フジイタケシ展

会期:2012/05/15~2012/05/20

GALLERY SUZUKI[京都府]

以前からも建物や構造物の「壁」をモチーフに作品を制作していたフジイタケシの個展。素材にはダンボールも使われているのだが、錆び、崩れ、朽ちていく構造物のありさまを表現する作品には静謐な趣きがあり、時間と物質の関係を思わせて想像を掻き立てる。穏やかな画面に多くの物語が潜んでいるような、重厚感のある佇まいや色も印象的。今回は久しぶりの個展だったようだがまた次の発表も楽しみだ。

2012/05/20(日)(酒井千穂)

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