artscapeレビュー

2013年06月15日号のレビュー/プレビュー

小原里美「SWEDEN」

会期:2013/05/27~2013/06/09

ギャラリー蒼穹舍[東京都]

小原里美は1999~2001年頃に写真新世紀に出品していたのだが、その頃は主にコラージュ作品を制作していた。細かい手仕事の、装飾的な画面をよく覚えている。ところが、その後モノクロームのスナップショットを主に発表するようになった。こちらはとても正統的というか、東京ビジュアルアーツで師事した森山大道の影響の色濃い、くっきりとしたコントラスト、大胆なフレーミングの作風で、その落差にずっと違和感を覚えてきた。
今回の「SWEDEN」の連作(蒼穹舍から同名の写真集も刊行)は、2006年から5回ほどスウェーデンを訪ねて撮影したもので、スナップショットとしての完成度は、以前にくらべて格段に上がっている。それだけではなく、元々小原が備えていた画面の構築力、コラージュ的に事物を配置していく能力の高さが、自然体で発揮されるようになってきているのではないだろうか。スウェーデンに通うきっかけになったのは、彼女の姉が結婚して移り住んだためで、「そこに暮らす私の家族」や親戚たちの暮らしぶりが写り込んでくることで、写真に単なる旅行者の視点ではない厚みが生じてきた。人、街、自然の絡み合いが、綴れ織りのように展開していく写真群を、気持ちよく目で追うことができた。
こうなると小原の視覚的体験は、彼女がずっとこだわり続けてきたモノクロームの世界にはおさまり切れなくなってきているのではないかとも感じる。彼女のコラージュ作品はカラフルな原色の世界だった。カラー写真の「SWEDEN」をぜひ見てみたいものだ。

2013/05/28(火)(飯沢耕太郎)

イシノマキにいた時間

会期:2013/05/29~2013/05/30

せんだい演劇工房 10-BOX[宮城県]

仙台の10-BOXにて、「イシノマキにいた時間」を観劇する。震災から8カ月後にあたる2011年11月初旬、人が減った時期のボランティアたちの物語。被災者ではなく、よそ者ながら現場にかかわりをもった登場人物ゆえに、ある意味でより多くの人に訴える。多くの人は被災地に住まない、非被災者だからである。前半はコミカルな進行だが、後半はボランティアをめぐる悩みと葛藤に展開していく。そして演劇の終了後、最新の状況なども紹介する。これは石巻の伝道師としての演劇と言えるだろう。以前、石巻のドキュメント映画を仙台でみたとき、東京や大阪で3.11作品を見るのとは全然違う雰囲気だった。自分たちの体験が映画/物語になっているという没入感と記憶の再現ゆえだろうか。今回の10-BOXには石巻の人も多く訪れ、たぶん被災地以外で見るのとは異なる空気が流れていた。

2013/05/29(水)(五十嵐太郎)

小平雅尋「他なるもの」

会期:2013/05/27~2013/06/08

表参道画廊[東京都]

小平雅尋は1972年、東京生まれ。97年に東京造形大学造形学部の写真コースを卒業後、写真家としてのあり方を静かに、だが着実に探求し続けてきた。2011年に刊行された写真集『ローレンツ氏の蝶』(シンメトリー)は、その成果を問うたもので、「不断に続けられる世界との細やかな対話の中で紡ぎだされてきたイメージ群」(増田玲)が、端正なモノクローム写真として提示されていた。
今回の「他なるもの」は、その『ローレンツ氏の蝶』の収録作品、及び同時期に撮影されていたアナザーカットによって構成されている。身近な東京の光景から、沖縄や隠岐島までを含むかなり広い範囲で撮影されており、内容的にも風景、昆虫や植物、自分の影を映し込んだ作品まで幅が広い。だが、そこには小平が世界に向ける眼差しのあり方がしっかりと定着されており、揺るぎない一貫性が感じられる。彼の写真の世界が、堂々とした風格を備えて確立してきた証といえるだろう。
タイトルの「他なるもの」というのは、ドイツの宗教哲学者ルドルフ・オットーの『聖なるもの』(1917)のなかの「全く他なるもの」という言葉からとったもので、「この世界に無防備に曝されているという、外界に対する強い畏れの感覚と、同時に現れる恍惚」を指す。このような宗教的な概念について、以前は警戒心が強かったのだが、「あの震災」以降に心に響くようになったという。たしかにこのシリーズには、畏れと恍惚が共存している趣がある。そしてそれは小平にとって、写真を撮るという行為を内から支える根源的な感情でもあるのではないだろうか。

2013/05/30(木)(飯沢耕太郎)

めめめのくらげ

村上隆の映画『めめめのくらげ』を見る。キャラたちのかわいさと見事な動きは狙ってもなかなかできないと思うし、アメリカ映画と違うオリジナリティを持った完成度の高い映像表現だ。完全アニメではなく、実写との融合で着実な成果をあげている。子役もいいし、ジュブナイルとの相性もとても素晴らしい。ただ、「あえて」の昔ながらのお約束設定なのだろうが、黒マントを着用した悪役・科学と宗教の見せ方にはのれなかった。

2013/05/30(木)(五十嵐太郎)

イキウメ「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」

会期:2013/05/10~2013/06/02

シアタートラム[東京都]

世田谷シアタートラムにて、イキウメの演劇『獣の柱』を観劇する。SF的な設定が抜群に面白い。謎の隕石の飛来、そして世界各地のテロが幕開けとなって、人が集まる都市に、空から降ってくる巨大な柱。高さ300m、直径30m。それを見るものは多幸感に囚われるが、あまりの過剰さゆえに、人々は思考と動作を停止し、第三者に止められない限り、硬直したまま死に至る。仮に止められても、見ているあいだの記憶を失う。長い年月を経て、人類に厄災をもたらす、圧倒的な光の柱は、普段は隠される宗教的な崇拝物になっていく。支配されながら、共存するか、あるいは都市とは異なる自給自足による別の生き方を選ぶか。いろいろな解読が可能だが、筆者には事故を起こした原子力発電所の寓意のように思えた。ちなみに、この柱は、2010年前後に出現したという設定になっている。

2013/05/30(木)(五十嵐太郎)

2013年06月15日号の
artscapeレビュー