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2015年05月15日号のレビュー/プレビュー

恐怖分子

エドワード・ヤン監督の映画『恐怖分子』を見る。観客を馬鹿にしたような説明的な台詞も、煽動的な音楽もなく、映画とは、そもそも視覚と「音」による表現なのだ、という当たり前のはずのメディア的な特質の悦びを体験できる。それにしても、寂しげなインテリアの空間の美しいこと。窓辺のシーンも素晴らしい。映画が終わった後にも、作品全体を貫く、静かな不穏さが持続する作品だ。

2015/04/06(月)(五十嵐太郎)

奈良礼賛~岡倉天心、フェノロサが愛した近代美術と奈良の美~

会期:2015/04/11~2015/05/24

奈良県立美術館[奈良県]

明治初期にアーネスト・フェノロサと岡倉天心により行われた調査により、その価値を再評価された正倉院宝物や仏教美術を中心とする奈良の文化財。本展ではその事実を基軸に、奈良の文化財に着想を得た狩野芳崖や横山大観らの絵画、彫刻、美術工芸品など112点を紹介している。本展を見る前は、展覧会タイトルから歴史画や風景画が並んでいるものと思っていたが、実際はそうした作品以外に模造・模写も数多く出品されており、筆者自身はむしろ後者に感心した。竹内久一、山田鬼斎による仏像の模造、横山大観、菱田春草、寺崎廣業らによる仏画の模写、小松松民、六角紫水らの工芸品模造、それらが持つ高い技巧と表現力に魅了されたのだ。他には、平櫛田中による岡倉天心の肖像《五浦釣人》、狩野芳崖の傑作《悲母観音》の下絵、芳崖と天心のスケッチやメモ書きなども興味深かった。敢えて僭越な物言いをするが、本展は予想外の拾い物である。

2015/04/10(金)(小吹隆文)

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操上和美「セルフポートレイト」

会期:2015/04/10~2015/05/10

B GALLERY[東京都]

アーティストの中には、ひとたび作品ができ上がったら、もうそれらをまったく顧みることのないタイプと、何度となくその作品のヴァリエーションを作り続けるタイプがいるようだ。マン・レイやルネ・マグリットなどは、同じテーマを飽くことなく変奏し続けたのだが、操上和美にもそんな所がある。だが、むろん彼らは同じ場所に留まってくり返しているのではなく、絶えず変わり続けていく、そのきっかけとして自作を利用しているのではないかと思う。
今回の新宿・B GALLERYでの操上の個展のタイトルは「セルフポートレイト」だ。だが「自写像」だけが並んでいるわけではない。彼が1970年代から撮影し続けてきたおびただしい数の広告写真や肖像写真、それらをアトランダムに選んで組み合わせ、その上にジャズのインプロヴィゼーションのように色や形を自由に重ねていく。俳優、女優、歌手、アーティストなどの著名人がモデルになっていることが多いのだが、彼らの社会的なステータスは潔いほど無視され、完全に”素材”として再利用されている。自分自身による自作の再解釈という側面はむろんあるのだが、純粋に遊び(プレイ)を楽しみながら作っているのが、むしろ気持ちのよいヴァイブレーションをともなって伝わってくる作品が多かった。
会場に展示されているのは19点だが、おそらくそこまで絞り込むためには、膨大な量の試作が積み上げているのではないだろうか。その厚みと凄みは、展覧会にあわせて刊行された同名の写真集(造本は本展の共同制作者といってよい町口寛)からもヴィヴィッドに感じとることができた。

2015/04/10(金)(飯沢耕太郎)

リチャード二世

会期:2015/04/05~2015/04/19

彩の国さいたま芸術劇場インサイド・シアター[埼玉県]

さいたま芸術劇場にて、蜷川幸雄の演出による「リチャード二世」を観劇。ホールの本来の座席を一切使わず、シアター内に三方から囲む場をつくり、バックヤードを使いながら舞台の長大な奥行きも確保する意表をついた空間の使い方に驚かされる。さらに車椅子、タンゴ、和装で洋靴、若手と高齢の男女俳優の組み合わせなど、台詞は流麗なシェイクスピアながらも、古典劇を徹底的に異化していた。

写真:さいたま芸術劇場

2015/04/10(金)(五十嵐太郎)

山口小夜子 未来を着る人

会期:2015/04/11~2015/06/28

東京都現代美術館[東京都]

山口小夜子といえば、ぼくの頭のなかでは70-80年代の「西武ーパルコ文化」のファイルの近くに、三宅一生や山口はるみなどとともに乱雑に積み重なったたまま、忘れかけていた。晩年(といっても50代だが)アーティスト志向を強めていたのは聞いてたけど、まさか現代美術館で再会するとは思わなかったなあ。展示は、彼女の少女時代に親しんだ人形、絵本、雑誌などから、杉野ドレメ時代の作品、モデル時代のポスターや映像、寺山修司や天児牛大らとのコラボレーションの記録、森村泰昌、宇川直宏、山川冬樹らによる小夜子に捧げる新作までじつに多彩。こんなモデル、もう出ないかなあ。

2015/04/10(金)(村田真)

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