artscapeレビュー
2016年05月15日号のレビュー/プレビュー
行千草「うつろうひび たそがれごはん」
会期:2016/04/12~2016/04/17
ギャラリー恵風[京都府]
具象的な風景にパスタが混入することで異界が出現する。行千草の絵画作品を簡単に説明すると、このような感じだ。本展でも大阪の高層ビルの壁面から素麺流しのようにパスタが垂れている作品が出展されたが、同時に新傾向の作品もあった。ティーカップの中で女性が湯浴みしており、その周囲に洋菓子やペイズリー柄が散りばめられたものである。同作は、ペイズリー柄について調べるうち、その発祥の地はインドで、英国のペイズリー市で量産されたこと、インドと英国といえば紅茶、紅茶といえばティータイム、ティータイムといえば茶菓子といった具合に想像をつなげて描いたものだ。パスタの作品よりもモチーフに多様性があり、多義的な解釈ができる。伸びしろも大きいと思うのだが、今後も継続的に制作されるのか不明だ。次回の個展を注視したい。
2016/04/12(火)(小吹隆文)
「現美新幹線」試乗会
上越新幹線の越後湯沢駅から終点の新潟駅まで、現代美術で武装した新幹線が走るという夢(悪夢?)のような本当の話。車体の外装は蜷川実花が撮影した長岡の花火。景気よく火花が散って、これで事故など起こしたらシャレにならない。6両の車両には7人のアーティストが作品を展示している、というより、車内を作品化しているというべきか。いずれも新潟県や新幹線をテーマにした作品だが、新潟市の「水と土の芸術祭」のために撮った旧作をアクリルで固定した石川直樹や、沿線の風景を描いた絵をコピー?した古武家賢太郎の作品にはちょっとガッカリ。また、シートにデザインした松本尚や鏡面で抽象構成した小牟田悠介は車内インテリアと同化してしまっている。おもしろかったのは、カラフルな布切れを上下対称に組み合わせて宙づりにした荒神明香の作品。新潟県とも新幹線とも直接関係ないけど、地上ではありえない振動により微妙に揺れるという予想外の効果を見せている。高速で走る密閉空間に展示するのだから制約は多いとは思うけど、揺れる、窓の外の風景が変わる、半分近くがトンネル、展示空間(車両)が細長い、といった美術館やギャラリーにはない特質を作品に採り込めれば、「超特急アート」として名が残るだろう。どうでもいいけど、現美(ゲンビ)というネーミングはちょっと古くさくないか? 6月まで土日のみ、1日3往復運行。7月以降の情報はウェブサイトで確認を。
2016/04/12(火)(村田真)
渡辺兼人「PARERGON」
会期:2016/04/11~2016/04/30
GALLERY mestalla[東京都]
本展のタイトルの「PARERGON(パレルゴン)」というのは、美術作品における「外、付随的なもの、二次的なもの」を表わす言葉。カントは絵の額縁や建築の列柱のようなそれらを、美術にとって非本質なものとみなしたが、デリダは本質的、非本質的という二分法そのものを脱構築すべきであると主張した。渡辺がなぜこの言葉をタイトルに用いたのかは不明だが、「写真至上主義者」である彼のことだから、写真における「PARERGON」を問い直そうという意図があることは明らかだろう。むしろ、写真表現の本質がどの辺りにあるのかを、逆説的に浮かび上がらせようとしているのではないだろうか。
会場に展示されている14点は、6×9判のカメラで撮影された縦位置の路上の光景で、すべて18×22インチのサイズに引き伸ばされている。写っているのはアスファルトで舗装されたあまり広くない道で、左右と奥には建物が並んでいる。どうやら雨上がりの場面が多いようで、歩道が黒々と濡れている写真が目につく。いつもよりはやや濃い調子で、黒みを強調してプリントしているように見える。
渡辺の写真は、いつでも何の変哲もない光景に見えて、見続けているうちに魔術的と言えそうな写真空間に誘い込まれていくように感じる。それを「PARERGON」を削ぎ落とした、純粋で本質的な写真の経験と言いたくなるのだが、「外、付随的なもの、二次的なもの」を欠いた「純粋写真」が、実際に成立するのかといえば疑問が残る。とはいえ、渡辺もそのことは承知の上で、写真撮影・プリントの行為を積み重ねつつ、「PARERGON」とその対立概念である「ERGON」の戯れに身をまかせようとしているのではないだろうか。
2016/04/13(水)(飯沢耕太郎)
クロダミサト「My Favorite Things」
会期:2016/04/08~2016/04/24
神保町画廊[東京都]
クロダミサトが写真新世紀でグランプリを受賞したのは2009年だから、それから順調にキャリアを積み重ねてきたといえるだろう。同世代の女性を撮り続けている「沙和子」のシリーズも厚みを増してきたし、結婚や出産を経験して、写真家としての方向性が明確に定まりつつあるように見える。今回の神保町画廊での展示は、いくつかのシリーズを合体したミニ回顧展的な趣だったが、1点1点の作品が自立しつつ繋がっていて、なかなか見応えがあった。そのなかでも、特に新作の「Melt the ice cream」は、彼女が新しい世界に踏み込みつつあることを指し示すシリーズになるのではないかと思う。
「Melt the ice cream」というタイトルの作品は、すでに2015年に私家版の写真集としても刊行されている。この時は、クロダのインスタント写真に、京都造形芸術大学の同級生でもある河野裕麻のドローイングをプラスしていた。日常性と非日常性、即物的な光景と性的な場面が入り混じるスタイルは踏襲されているが、今回展示されたヴァージョンでは、よりクリアーに眼前の世界を再構築していこうとする志向が強まっている。ゲイの男性たちの性行為の場面や、太り気味の女性のヌードなどに、金魚やエビなどのイメージが加わって、シリーズとしてさらに成長しつつある様子がうかがえた。「沙和子」のような被写体を限定したセッションとは違う、より重層的な広がりと膨らみを備えた写真のあり方が、少しずつかたちをとりつつあるように思える。
2016/04/13(水)(飯沢耕太郎)
味のり マメイケダ 絵の展覧会
会期:2016/04/13~2016/04/24
iTohen[大阪府]
日々の食事を日記のようにノートに描き続けているマメイケダ。洋食、和食、中華、弁当、パン、駄菓子など、庶民的なメニューを描いたその作品は、自分の好物を率直に描いているのが素晴らしい。本展では展覧会仕様の大作も展示されていたが、作品が放つ魅力はノートの小品と変わりなかった。日頃、コンセプトがどうの、文脈がどうのといった作品と数多く接しているが、創作の原点に忠実なのはむしろ彼女のほうだろう。作品を見てシンプルに共感し、その魅力を誰かに伝えたくなる。ちなみに画像の作品は《味のり》。オールオーバーの抽象絵画然とした画面とタイトルのギャップに大笑いした。
2016/04/14(木)(小吹隆文)