artscapeレビュー
2016年05月15日号のレビュー/プレビュー
柴田敏雄「Bridge」
会期:2016/03/31~2016/05/17
キヤノンギャラリーS[東京都]
柴田敏雄は2013年に、ベルギーの建築家で構造エンジニアのローラン・ネイから自分の設計した「橋」を写真で作品にできないかという依頼を受けた。柴田はそのプロジェクトを引き受けることにしたのだが、その理由は、かつて1970年代後半にベルギーに留学していたという縁だけではなく、環境、コスト、住民の意見などをもとに設計を進めていく、ネイのやり方に興味を持ったからだった。その「とびきりオープンな」スタイルが、彼自身の「場を借りる」という「パッシブな制作の方法論」と共通していると考えたのだという。
結果的に、今回東京・品川のキヤノンギャラリーSで展示された「Bridge」のシリーズは、これまでの柴田の作品と比較して、より自由度の高い、見方によっては「行き当たりばったり」に見えかねないものになった。抽象画を思わせる、きっちりとパターン化された画面構成ではなく、よりダイナミックで不安定な構図が選択されており、水、空、植物、建築物、さらに通行人など、「橋」の周辺のノイズ的な要素が積極的に取り入れられている。柴田がこのような「制作の方法論」をとることができたのは、本作がデジタルカメラとズームレンズで撮影されていることと無関係ではないだろう。これまでの大判カメラによる作品とはかなり肌合いが違うので、戸惑う人もいるかもしれないが、僕はむしろその変化をポジティブに評価したい。デジタル化の成果を軽やかに取り込むことで、柴田の作品世界に新たな語彙がつけ加えられたのではないだろうか。
2016/04/04(月)(飯沢耕太郎)
森村泰昌 自画像の美術史 「私」と「わたし」が出会うとき
会期:2016/04/05~2016/06/19
国立国際美術館[大阪府]
美術史上の名作の登場人物や作家に自らが扮したセルフ・ポートレイトで知られる森村泰昌が、それら「自画像」シリーズの集大成となる個展を地元大阪で行なっている。作品総数は約130点(うち森村の作品は125点)。第1部で初期作品から新作・未発表作品までを網羅しているほか、第2部で上映時間約70分の新作長編映像作品を出展。また、森村が1985年に参加した伝説的展覧会「ラデカルな意志のスマイル」が再現されており、盛り沢山な内容となった。展覧会タイトルの「私」と「わたし」は、美術家あるいは作品の一部となった森村=「私」と、プライベートの森村=「わたし」を表わしており、両者の出会いと往還のなかから作品が生み出されてきたことを表わしている。ところが第1部末尾の章立てに「私」の消滅が示唆されており、自画像シリーズの終了を意味するのかと早合点した。森村に尋ねたところ、インターネットや仮想現実などの技術的発展により、私/わたしの境界線が揺らいでいる現状を受けた文言とのこと。自画像シリーズは今後も継続していくとの回答を得た。その意味で本展は、回顧展であり通過点でもあるのだが、森村の業績を概観する重要な機会なのは間違いない。
2016/04/04(月)(小吹隆文)
GAME ON ゲームって なんで おもしろい?
会期:2016/03/02~2016/05/30
日本科学未来館[東京都]
お台場に「ガメオン」現われる! と思ったら「GAME ON」だったって話。春休みの息子12歳(ゲーム中毒)を連れて、なるべくすいてそうな雨模様の月曜の午前中に訪れるも、みんな考えることは同じ、100メートルを超す長蛇の列で待ち時間は40分だと。晴れた休日だったら倍は混んでいただろう。展示は70年代の化石のようなゲームから現在まで約半世紀の歴史をたどり、実際に体験するもの。ぼく自身いまはゲームにはまったく興味ないが、サラリーマンになりたての70年代末、会社の近くにスターウォーズ系の敵機を撃ち落とすゲーム機が導入され、昼休みに夢中になったことがある。やがてブロック崩しやインベーダーゲームが幅をきかせるようになって興味を失ったが、その最初にハマったゲームを探したら、どうやら「スペースウォーズ」らしいことがわかった。なつかしい。企画展を出たら、隣のシンボルゾーンでアシモくんの実演をやっていた。ひざが「く」の字型に曲がってはいるが、走ったり後ずさりしたりケンケン(片足飛び)したり、よく進化したものだと感心。最後は手話も披露して人間らしさ(というより人間への隷属性)をアピール。これ以上進化する(させる)と危険水域に入っていくんじゃないか。
2016/04/04(月)(村田真)
バットマン VS スーパーマン ジャスティスの誕生
「バットマンvsスーパーマン」を見る。前作『マン・オブ・スティール』の戦闘における無茶苦茶な都市の破壊を見て、多くの犠牲者が出たのではないかと疑問に思った部分から、物語が始まっているのはいいけれども、さすがに全体のトーンが暗く、尺も長過ぎる。ザック・スナイダーの映画はわりと好きなほうだが、今回の戦闘シーンの連続は飽きてしまった。途中、ミースのファンズワース邸のような建築が登場するのは興味深い。
2016/04/04(月)(五十嵐太郎)
東城信之介|REC+交じり融けし箍
会期:2016/03/26~2016/04/23
COHJU contemporary art[京都府]
鋼板、銅板に錆びとグラインダーの削り跡でイメージを描き出す東城信之介の作品。薄い金属板とは思えない奥行と層構造は、グラインダーを当てる角度を微妙に変えることで生じる。観客が移動すると光の反射角が変化し、イメージがゆらゆらと動いて見えるのも興味深い。また、照明を落とすと表面が傷ついた金属板にすぎないが、光を得た瞬間に生命を得る(=空間が出現する)ギャップも作品の魅力といえるだろう。最近はインターネットの画像検索が便利になり、実物を見なくても良しとする人が増えているが、東城の作品はそうはいかない。じかに作品と対面すれば、筆者の説明が大げさではないと分かるはずだ。
2016/04/05(火)(小吹隆文)