artscapeレビュー
2017年01月15日号のレビュー/プレビュー
宇野真由子写真展「root」
会期:2016/12/13~2016/12/18
フォトギャラリー壹燈舎[大阪府]
作者は北海道釧路市周辺の出身で、大学時代を名古屋で過ごし、卒業後に大阪でカメラマンになった。その後沖縄に移住した時期もあったが、現在は再び大阪でカメラマンをしている。本展の作品は故郷の冬景色を撮影したものだ。釧路市の辺りは冬でも積雪が少なく、風が吹くと雪が舞い上がって霧がかかったようになるという。本展の作品にもそのような情景がいくつもあった。また、冬特有の乾いた光をハレーション気味に表現した作品もあった。作者は子供の頃から早く都会に出たいと思っていたという。しかし、最近になって地元の美しさに気付いたそうだ。自分自身を振り返っても、故郷とはそういうものかも知れない。今後も制作を継続して、美しい故郷を見せてほしい。
2016/12/17(土)(小吹隆文)
橋本陽子写真展「ラビリンス」
会期:2016/12/06~2017/12/18
ギャラリー・ソラリス[大阪府]
少女から大人へ向かう10代後半から20代前半の女性を約8年間にわたって撮影。大小さまざまなサイズにプリントした写真30数点を、インスタレーションとして展示した。最初は一人の少女を追った作品だと思ったが、よく見ると複数の人物が混ざっている。しかし、ドキュメントか否かは大した問題ではない。作家の被写体に対する眼差しには、その年代の同性に対する憧憬が感じられ、なるほど女性にしか撮れない写真だと感心した。同性を撮影する場合、あえて辛口な視点を採用する方法もあるだろう。しかし本作では、過渡期の女性が放つ刹那の美への共感が前面に出ており、それが作品に繊細さや品の良さを与えていたと思う。作家はこれまでグループ展で活動しており、個展は今回が初めて。それにしては展示構成もそつなくまとめており、好スタートと言えるだろう。いつになるかは分からないが、次の個展を楽しみにしている。
2016/12/17(土)(小吹隆文)
台徳院殿霊廟模型
増上寺宝物展示室[東京都]
昨年、徳川将軍家の菩提寺である増上寺に、「台徳院殿霊廟模型」の常設展示を目的として、宝物展示室が開設された。台徳院殿霊廟とは、1632年に徳川家光公(三代)が秀忠公(二代)を祀るため、境内に造営した御霊屋。これは国宝に指定され、「日光東照宮に先立つ原型」ともいうべき豪華絢爛な建築群であったが、大戦の火災で焼失してしまった。これまではその姿を限られたモノクロ写真から想像するしかなかったのだが、英国王室に献上後ロイヤル・コレクションとして長らく保管されてきた同模型が、100年以上の時を超えて里帰りした。といってもこれはただの建築模型ではない。明治期に東京美術学校の高村光雲(彫刻)、古宇田実(建築)らの監修のもとに制作された、非常に精巧な10分の1スケール(全体で4×6メートル)のもの。1910年の日英博覧会で展示後、キュー・ガーデンの室内で公開されたが、その後に解体、倉庫で保管されていたという。このたびそれを修復したうえで組み立て直し、内部の構造と装飾が見えるようにと、本殿の屋根と本体を外して別々に展示している。狩野探幽ら名だたる絵師や棟梁が参加して造営されたオリジナルと同じ構築材料・工法・彩色技法を用いて、建築細部まで忠実に再現した技術と執念。とにかく明治の超絶技巧といっていい。明治時代に来日した英国人デザイナー、クリストファー・ドレッサーは日光東照宮を激賞したことで知られるが、その訪問より先に増上寺を訪ねて、同霊廟の壮麗さにも感服している。同模型は、歴史的資料の点からしても価値が高い。[竹内有子]
2016/12/17(土)(SYNK)
日本発 アナログ合体家電 大ラジカセ展
会期:2016/12/09~2016/12/27
Parco Museum[東京都]
さまざまな機能をひとつの装置にまとめたい、そして外に持ち出したいという欲望は、いまやスマートフォンという装置に集約されつつあり、そうした要求は必ずしも日本独自のものではないと思われる。しかしながら、かつて一世を風靡したラジカセの場合、日本の家電製品が世界を席巻していた時代の産物であり、それが「日本発アナログ合体家電」(本展サブタイトル)と呼ばれることに違和感はない。多機能製品は数あれども、ラジカセの場合はラジオ、FM放送を録音・再生する媒体としてカセットテープレコーダーが補完的役割を果たしていたこと、電池でも駆動でき、取っ手が付いてどこにでも持ち運びできたことが商品としてヒットした理由だろう。キッチュな合体家電と異なり、ラジカセはユーザーのニーズにフィットした製品だった。展示品は家電蒐集家・松崎順一氏が収集したヴィンテージ・ラジカセの数々で、それらのデザインの特徴を一言でいうと「男の子っぽい」。飛行機のコックピットを思わせるほどスイッチやつまみが多いのだ。会場でかつて筆者の父親が使っていたアイワのラジカセTPR-820(1978年)に再会したが、これほどたくさんのスイッチを父が使いこなせていたとは思えない。操作性のよさよりも、金属的な質感の外装、複雑な操作系が当時の(男性にとっての)「新しさ」「かっこよさ」だったのだと思う。展示されているラジカセのパンフレット表紙には女性アイドルや水着のモデルが起用されているものが多く、これもラジカセが男性向けのアイテムだったことを示していよう。ポータブルな家電という点では、昨夏に生活工房で開催された「日本のポータブル・レコード・プレイヤー展」が思い出される。レコード・プレーヤーの場合はプラスチック製のポップなデザインとカラーが印象的だった。コレクションにバイアスがあることは考慮しなければならないだろうが、両者のデザインの違いにはユーザー層の差、時代の違いがうかがわれる。[新川徳彦]
関連レビュー
日本のポータブル・レコード・プレイヤー展|SYNK(新川徳彦):artscapeレビュー
2016/12/17(土)(SYNK)
VvK Programm 17「フクシマ美術」
会期:2016/12/13~2016/12/25
KUNST ARZT[京都府]
VvK(アーティストキュレーション)の17回目は、KUNST ARZTを主宰する岡本光博がキュレーションした「フクシマ美術」。岡本がこれまで企画した「美術ペニス」(2013)、「モノグラム美術」(2014)、「ディズニー美術」(2015)に続き、自主規制や検閲とアートの問題も内包した、問題提起的なグループ展だ。
出品作品は、「フクシマ」を直接的に主題化したものと、直接的なメッセージ性を超えた射程を持つものとに二分される。前者に属すのが、瓦礫になった被災地の若者と円陣を組んで気合いを上げるChim↑Pom《気合い100連発》と、岡本光博と井上明彦の作品だ。岡本は、放射性汚染土を詰めた黒い袋(フレコンバッグ)に目玉と足を付けてキャラクター化し、「漏れ」を掛け合わせて「モレシャン」と命名。ポップにかわいく変容させて「無害化」することで、逆説的に得体の知れない不気味さを増幅させるとともに、「土地の精霊」を思わせる彼らが打ち棄てられた風景を可視化させる。また、井上は、会津磐梯山や猪苗代湖など福島県の地形を模型化し、汚染土壌の仮置場用の遮水シートでその上を覆った。観客は、靴を脱いでその上を歩くことで、土地の起伏とともに、「何かが隠されている」違和感を足裏への抵抗として感じることになる。
一方、「フクシマ」の直接的な主題化を超えて、「境界線」や、鎮魂と想起の営みについてそれぞれ言及していて秀逸だったのが、やなせあんりと吉田重信。やなせの《線を引く(複雑かつ曖昧な世界と出会うための実践)》は、2015年夏、国会周辺のデモに集った群衆の足元の道路に、「チョークで線を引く」パフォーマンスの記録映像である。問い質す警察官、「こちら側を歩けってこと?」と聞き返す人、「コンタクトレンズを落としたのか」と心配する人。「線を引く」というシンプルな行為が、周囲のさまざまな反応を引き起こし、撹拌しながら、デモという一時的な共同体をいつの間にか二つに分断してしまう。その行為は、擬似的に一体化した群衆の内部に主張や立場などのさまざまな差異が潜在することを露わにするとともに、地震による亀裂という物理的な線、「原発20km圏内」や警察の規制線といった人工的な境界の恣意性、さらに当事者/非当事者の線引き、分断や排除の構造の可視化など、「線(境界線)」が孕む意味の多重性を提示していた。
また、福島県いわき市在住の吉田重信が震災後に取り組む《水葵プロジェクト2016》も紹介された。「水葵」は、湿地の干拓によって姿を消した準絶滅危惧種だが、津波の被害を受けた海岸沿いの水田跡などに自然に群生している姿が発見された。地表がえぐられ、古い地層に眠っていた種子が自然に発芽・開花したものだという。吉田は水葵の花の写真の展示とともに、採取した種子を鉛でくるんで配布し、共に育てていく協力者を募る取り組みを行なった。毎年夏に青紫の花を咲かせる水葵は、一年草のため、種を採取して再び撒かなければ次の年に引き継げない。花の開花と種の採取という、一年毎に繰り返すサイクルや回帰性は、鎮魂の営みであると同時に、想起の営みや記憶の継承それ自体の謂いとしても象徴的だ。元の場所から人の手によって運ばれ、故郷の喪失と移動を繰り返しながら受け継がれていくこと。種の遺伝情報を受け継ぎながらも発芽・開花の度に異なる形態的現われを持つこと。それは、想起の営みが、場所・時間の断絶によって駆動すること、過去の完全な復元ではなく変容を孕むことを、自然の無慈悲なまでの残酷な美しさとともに象徴的に示していた。
2016/12/17(土)(高嶋慈)