artscapeレビュー
2017年01月15日号のレビュー/プレビュー
正岡絵理子「羽撃く間にも渇く水」
会期:2016/12/07~2016/12/18
TOKYO INSTITUTE OF PHOTOGRAPHY 72 Gallery[東京都]
毎年夏に東川町国際写真フェスティバルの行事の一環として開催されている「赤レンガ公開ポートフォリオオーディション」も、2016年度で5回目を迎えた。今回のグランプリ受賞者は、現在奈良県在住の正岡絵理子。その受賞記念展として本展が開催された。
受賞作の「羽撃く間にも渇く水」は、正岡がビジュアルアーツ専門学校・大阪在学中から10年余り撮り続けてきた息の長い連作である。彼女の身辺を撮影したモノクロームの日常スナップだが、一枚一枚の写真の強度、緊張感がただ事ではない。一言でいえば、アニミズム的な世界観というべきだろうか。ヒトも、動物も、モノも、自然も、人工物も、彼女の目に写るすべてのものが生命体として生気を発し、分裂・生成を繰り返している。つかの間の一瞬を捉えた写真の集積にもかかわらず、そこには「46億年続く歴史の中で水溜りの中の一滴のような私たち」を見通す視点がある。そのスケールの大きな作品世界は、だが、さらに飛躍していく時期に来ているのかもしれない。
「赤レンガ公開ポートフォリオオーディション」の時点では、100点以上あった「羽撃く間にも渇く水」のシリーズは、70点ほどに整理され、今回の展覧会にはそのうち16点が展示されていた。止めどなく溢れ出そうとする写真たちを、塞き止め、明確な形にしていこうという意志が芽生えつつある。それだけでなく、デジタルカメラを使った新作も撮り始めているという。結婚し、子供が生まれ、奈良に移住するという人生の変わり目を迎えて、彼女の写真がどんなふうに変わっていくのかが楽しみだ。
2016/12/09(金)(飯沢耕太郎)
台北 國立故宮博物院─北宋汝窯青磁水仙盆
会期:2016/12/10~2017/03/26
大阪市立東洋陶磁美術館[大阪府]
台北の國立故宮博物院から、「神品」あるいは「人類史上最高のやきもの」と称される北宋汝窯青磁水仙盆4点と、清時代につくられた精巧なコピー1点、それらの付属品が来日。大阪市立東洋陶磁美術館が所蔵する北宋汝窯青磁水仙盆1点と合わせて展示された。これらの作品を見たときに私が思い出したのは、数十年前の学生時代に購入したジョージ・セル指揮/クリーヴランド管弦楽団のLPレコードに、評論家の吉田秀和が執筆したライナーノーツだ。そこではセルの音楽性を元宋から明清の陶磁器や北宋画にたとえ、「あのひんやりした清らかさと滑らかな光沢を具えた硬質の感触」、「茶の湯で尚ばれる不規則な曲線にみちたいびつで、ざらつく手ざわりの茶碗とは正反対の美学」と記されている。本展を見た瞬間、私の脳裏にその一文がよみがえり、「あぁ、吉田秀和が言っていたのはこれか」と納得した。率直に言って、私は北宋汝窯青磁水仙盆の真価を理解できていない。しかし、吉田秀和の一文とセルの音楽を頼りに本展を見ることで、ある種の感慨に浸ることができた。そこには、完全なるものへの飽くなき希求とその結実が確かにあった。
2016/12/09(金)(小吹隆文)
日本におけるキュビスム─ピカソ・インパクト
会期:2016/11/23~2017/01/29
埼玉県立近代美術館[埼玉県]
前半はキュビスムの影響を受けた戦前の作品群(未来派や表現主義など、他のイズムも混じるのが、遠いアジアでの受容を感じさせる)、中間にピカソやブラックを展示し、後半は「ゲルニカ」など、ピカソが1950年代の日本に与えたインパクトを検証する。あまりにピカソ的な作品(いまならパクリと言われるかもしれない)から、そんなにキュビスム風かな? と思う作品まで、それぞれの時代精神をあぶり出す。
2016/12/09(金)(五十嵐太郎)
フェスティバル/トーキョー16 ドーレ・ホイヤーに捧ぐ「人間の激情」「アフェクテ」「エフェクテ」
会期:2016/12/09~2016/12/11
あうるすぽっと[東京都]
スザンネ・リンケ構成・演出/ドーレ・ホイヤーに捧ぐ@あうるすぽっと。自殺したドーレ・ホイヤーの功績を掘り起こし、ダンスの歴史を意識しながら、未来へとつなぐ試みである。表現主義の舞踏を資料から再現した「人間の激情」は、平面的にも感じられる独自のポーズで抑制された動きだった。一方、後半の男女がダイナミックに絡みながら踊る二作品は、対をなすような印象で面白い構成である。
2016/12/09(金)(五十嵐太郎)
kumagusuku「Attraction / アトラクション」
会期:2016/12/03~2016/12/25
高架下スタジオ Site-Aギャラリー[東京都]
「kumagusuku(クマグスク)」は、美術家、矢津吉隆が2015年に京都に開設した“アート”と“ホステル”を融合させた宿泊型のアートスペース、とチラシに書いてある。京都では作品とともに一晩をすごす場所として機能しているらしいが、横浜ではそのプレゼンとして、黄金町を拠点にするアーティストたちとコラボレーションしている。作品はタオ・ウェイの絵画、木村有貴子の彫刻、スザンヌ・ムーニーの映像と三者三様だが、いずれも小型の劇場か映画館のようなボックスに作品を置き、椅子やソファに座ったりべッドに寝そべったりしながら鑑賞できる仕掛けだ。1人用の作品鑑賞装置としてはベストかもしれないが、問題は一晩中ともにすごせる(いいかえれば長時間見るに耐える)作品があるかどうかだろう。本気で考えると普及させるのは難しいけど、アイディアとしてはおもしろい。
2016/12/09(金)(村田真)