artscapeレビュー

2012年11月15日号のレビュー/プレビュー

青木野枝│ふりそそぐものたち

会期:2012/10/20~2012/12/16

名古屋市美術館[愛知県]

名古屋市美の青木野枝展を見る。1階、2階ともに、可動壁を一切使わず、むき出しになった黒川紀章の建築。名古屋市美がこんなに広々として明るい空間に見えることに驚かされた。こうした状態を初めて見たが、やはり開館以降、前例がないらしい。その空間的な特徴に寄り添い、空間と対話をしながら、厳選された鉄の彫刻を置く。旧作でさえも、ここのためにつくられたと思えるほどだ。彫刻=オブジェがまわりの環境をつくり、館全体の空気をつなげていく。

2012/10/26(金)(五十嵐太郎)

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川俣正・東京インプログレス ドームづくり

会期:2012/09/15~2012/10/26

春海橋公園[東京都]

川俣が汐入タワー(荒川区)、佃テラス(中央区)に続いて制作した春海橋公園の豊洲ドーム(江東区)。タワー、テラス、ドームと手持ちの技を繰り出している。高さ12メートルのこのドームは、がっちり組み立てた鉄骨構造の内外に都内で集めた廃材を斜めに貼りつけていったもの。コップを伏せたような形態で、なんとなく原発を思い出させないでもない。

2012/10/27(土)(村田真)

長谷川直美 展

会期:2012/10/22~2012/10/27

Oギャラリーeyes[大阪府]

愛知県生まれの長谷川は、これまでおもに名古屋や東京で発表をしており、今展は私も初めてその作品を見る機会だった。旧約聖書に書かれた物語や以前作家が訪れたことのある沖縄、アウシュヴィッツの光景などを題材にしたその絵画には、《a prayer》というタイトルがつけられたものが数点あり、悲しみに暮れる人や祈りの場面が描かれている。何故人間は存在するのかという問いかけにも始まる重いテーマを持つ内容だったのだが、全体に絶望ではなく、ごく普通に暮らす個人という、ひとりの人間を慈しむ眼差しをひしひしと感じる絵画で穏やかさにも溢れた魅力的な作品だった。

2012/10/27(土)(酒井千穂)

ウィーン国立劇場2012日本公演 G.ドニゼッティ「アンナ・ボレーナ」全2幕

東京文化会館[東京都]

会期:2012/10/27、10/31、11/4
東京文化会館にて、オペラ『アンナ・ボレーナ』を見る。英国王ヘンリー8世の無茶苦茶に翻弄され、死刑にされた女王の物語。引退を発表したアンナ・ボレーナ役のソプラノ、エディタ・グルベローヴァ(65歳!)の独唱がすさまじい。超高音の波動がホールの隅々まで突き刺す、圧倒的な存在感だった。舞台美術も興味深い。パースを効かせた台形の大きなフレームの箱が、物語の展開に従って、少しずつ回転しながら、あるいは開口部の大きさを調整することで、さまざまな場に変容していく。例えば、ウィンザー城の広間、居室、森、建物の外部、牢獄、裁判などである。

2012/10/27(土)(五十嵐太郎)

都筑アートプロジェクト2012

会期:2012/10/07~2012/10/28

横浜市営地下鉄センター北駅+グリーンライン高架下ほか[神奈川県]

これまでセンター北駅から徒歩10分ほどの大塚・歳勝土遺跡公園を舞台にしてきたが、今回は駅に直結する場所が確保できたので移転。しかし結果はちょっとなあ。たしかに駅に近いのは便利だし、より多くの人に見てもらえるのはいいのだが、メイン会場の高架下はフェンスに囲まれた殺風景な空間。遺跡公園の竪穴式住居や江戸時代の民家のような歴史もなければ、丘も林も池もないたんなる更地なので、作品づくりのとっかかりがないのだ。だから作品たちは檻のなかの動物のように所在なげで寂しそうだった。でもいいこともあった。ある若者が勝手にフェンスに自分の作品を展示したのだ。なぜかカッパの絵と彫刻と解説図のセットで、作品的にはちょっとアレだけど、自分も出してみようと思わせるなにかを感じたに違いない。あるいはこの程度の作品だったら自分もできると踏んだのかもしれないが、いずれにせよ市民を刺激し、誘発したのは事実。こういうことが許されるのもゆるいアートプロジェクトならではのこと、美術館では許されないからね。

2012/10/28(日)(村田真)

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