artscapeレビュー

2012年11月15日号のレビュー/プレビュー

3・11とアーティスト:進行形の記録

会期:2012/10/13~2012/12/09

水戸芸術館 現代美術ギャラリー[茨城県]

水戸芸術館の「3・11とアーティスト」展へ。サブタイトルに「記録」と掲げているように、想像以上にストレートな記録の意味合いが強い。作品や活動は、時系列に並べている。アートとしては、やはりChim↑Pomの気合い100発、照屋勇賢、そしてヤノベケンジ、畠山直哉らが興味深い。個人的には、せっかくなのだから、一時閉鎖に追い込まれた水戸芸術館の被災状況の展示も見たかった。

2012/10/28(日)(五十嵐太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00018766.json s 10060638

希望の国

園子温監督による『希望の国』の形式は原発映画だ。が、その理解だけでは狭すぎる。世界は不条理な外力=杭にあふれており、そこでお上やナショナリズムに救いを求めるのではなく、自己決定によって道を切り開くこと。3組の世代の違う男女は最後にそれぞれの選択を行なう。ゆえに、ラストで「希望の国」のタイトルが出る。実際、南相馬では、映画のように、お隣の家同士のあいだに、境界線が引かれている現場を目撃した。そして登場人物たちの言葉はリアリティをもち重い。とくに老夫婦がそうだ。が、個人的に多くの被災地をまわったせいで、柵や境界線の過剰なつくり込み、ロケ地のワープなどがちょっと気になった。『希望の国』は、黒澤明の『生きものの記録』の3.11以降版と言えるかもしれない。冷戦下の核への恐れが暴走する昭和の家父長制に対し、ポスト冷戦下に実際に起きてしまった原発事故の後に描かれたドキュメンタリー風でもある平成の家族像。ここに黒澤が描いた狂気へのアイロニーはなく、むしろ自己決定のポジティブさがある。

2012/10/28(日)(五十嵐太郎)

糸崎公朗「盆栽×写真 VOL.02」

会期:2012/10/05~2012/11/28

さいたま市大宮盆栽美術館[埼玉県]

昨年の大和田良に続いて、今年もさいたま市の大宮盆栽美術館で「盆栽×写真」の展覧会が開催された。大和田の展示も面白かったが、糸崎もいかにも彼らしい作品を発表している。やはり盆栽と写真とは、相性がいいのではないだろうか。
糸崎が用いているのは、お馴染みの「ツギラマ」の手法。複数の視点から撮影した画像をつなぎあわせ、パノラマ的な視覚空間をつくり上げている。伸び縮みする「ツギラマ」の視点で、盆栽のディテールをかなり極端なクローズアップで撮影し、それらをグリッド状に配置していく。画像の一部だけにピントが合っていて、あとはボケているカットもあり、まさに継ぎはぎだらけの面白い視覚的効果が生じていた。糸崎の試みがうまくいっているのは、やはり盆栽という素材だからこそとも言えるだろう。盆栽はひとつの鉢の中で、完結した小宇宙を形成しており、自然に育っている樹木と違って、近距離から、どんなアングルでも自由に撮影することができる。一方で「ツギラマ」の手法で撮影された盆栽は、それほど大きなものではないはずなのに、あたかも巨大な森のようにも見えることもある。そのあたりの、融通無碍な視点の変化が、大小19点の作品をリズミカルに壁面に配置した展示効果と相まって、とてもうまく使いこなされていた。
この「盆栽×写真」の企画、まだいろいろな形で展開していく可能性がありそうだ。大和田、糸崎に続く第三の写真家がいったい誰なのか、そのあたりも楽しみになってきた。

2012/10/29(月)(飯沢耕太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00019192.json s 10060619

サウダーヂ

仙台にて、念願の『サウダーヂ』を見る。日本人、ブラジル人、タイ人、政治家、金持ち、労働者、ラッパーなど、シャッター街となった甲府の町をうごめくさまざまなトライブがゆるやかに連鎖する群像である。彼らは、もはや存在しない故郷/過去に憧れながら(=サウダーヂ)、多国籍化した地方都市でリアルに生きていく。まるでドキュメンタリーのような登場人物たちの実在感が半端ではない。『サウダーヂ』は、富田監督の前作『国道20号線』からより進化し、保守的な景観論者が目をそむける現実を描く。数千以上の卒業設計を見たが、こうした世界を扱う建築学生を見たことがない。実際、映画のなかで語られる「建築家」は、政治家と同様、虚飾の象徴として言及される。逆に大地を掘る土方はルーツの探求を意味する。以前、アップリンクで富田克也監督と「ヤンキー講座・ミレニアム」のトークショーを行なった。そのとき彼が、過去20年間に変容したヤンキーの資料映像を編集した作品は面白かった。古きよきヤンキーも、サウダーヂの対象である。鷹野毅が深夜の商店街で幻視したように。富田にとっての甲府もそうなのだろう。

2012/10/29(月)(五十嵐太郎)

ジャン・ミシェル・ブリュイエール/LFKs「たった一人の中庭」

会期:2012/10/27~2012/11/04

にしすがも創造舎[東京都]

フェスティバル/トーキョーのプログラムのひとつだが、演劇公演とは違ってインスタレーションの展示。したがって観客は開場時間内ならいつでも見られるという利点がある。会場は学校の跡地なので教室が舞台になる。最初の教室ではヒラヒラをつけたモップのオバケみたいなのが5、6人踊っている。部屋もオバケも真っ白だ。次の教室は家庭科室だろうか、スモークがたかれ、鍋で卵をゆでている。なんだこれは? その次の教室は理科室だろう、各テーブル横のシンクに首のない小さな人形が座り、リズミカルに電話が鳴り、水道水が流れる。……といった感じ。最後は体育館で、テント内で白衣の人たちが作業中で、ポップ音楽が鳴るとみんなで踊り出す。テントの外はマユみたいなクッションが床全体に敷きつめられ、手術用ベッドが上下に動いてる。なんかワケわかんないけどおもしろかった。

2012/10/30(火)(村田真)

2012年11月15日号の
artscapeレビュー