2021年12月01日号
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artscapeレビュー

ローマ未来の原風景 by HASHI

2010年01月15日号

会期:2009/09/19~2010/12/13

国立西洋美術館(新館2階版画素描展示室)[東京都]

12月5日、国立西洋美術館の講堂でHASHIこと橋村奉臣と「出たとこ勝負」のトークをした。トーク自体はかなり盛り上がったのだが、その前に、もう一度同館で開催中の「ローマ未来の原風景 by HASHI」をじっくり眺めてきた。
最初はその技巧的な操作が目立つ作品にまったく馴染めなかった。ニューヨークに拠点を置いて活動してきた彼の代名詞というべき、10万分の1秒の高速ストロボで被写体を定着した「Action Still Life」のシリーズを封印し、「HASHIGRAPHY」と称する暗室作業によって、ローマで撮影された遺跡の風景や街頭スナップを、筆のストロークの跡が目立つ絵画的な画像に変容させている。「21世紀の光景を千年後の未来に発見する」というコンセプトはわからないでもないが、それを強引に実現しようとすることで、せっかくの写真家としての被写体の把握力や高度な画面構成力を活かしきっていないように感じた。
だが暗闇のなか、一点一点の画面にスポットライトの光を絞り込んで当てるという工夫を凝らした展示室で時を過ごすうちに、これはこれでやりたいことを自由にやっていきたいというHASHIの欲求の高まりを形にしたものなのではないかと思いはじめた。厳しい制約のある広告写真の世界で生きてきた彼にとって、「HASHIGRAPHY」での子どもの泥遊びのようなのびやかな表現が、次のステップに進むのに必要だったということではないだろうか。おそらく「Action Still Life」と「HASHIGRAPHY」のちょうど間のあたりに、これからの彼の仕事の可能性が潜んでいるような気がする。なお、美術出版社から同展のカタログを兼ねた写真集『HASHIGRAPHY Rome: Future Déj Vu 《ローマ未来の原風景》』が刊行されている。

2009/12/04(金)(飯沢耕太郎)

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