artscapeレビュー
『現代建築家コンセプト・シリーズ1藤本壮介──原初的な未来の建築』藤本壮介
2010年01月15日号
発行所:INAX
発行日:2008年4月25日
久しぶりに手にとって、やはり圧倒的な強度の形式を内在させた本だと思った。藤本壮介の建築は、どれも物事を徹底的に還元させていったときに残るような形式を持っている。不思議なのは、還元され、抽象化されたような形式性であるのに、そこから生まれる建築は、必ずしも単純ではなく、還元されない複雑性を持っているところである。例えば、「ぐるぐるとはなんだろうか。最も古い形。それでいていまだによくわからない形」とはじまる短いテキスト。冒頭のぐるぐるとした線のスケッチ。しかしそれが次の段階で急に魅力的なプロジェクトに変化する。本当はその間には長いプロセスがあるのだろうが、その過程をすべて省略しているので、最初の形式が最後の段階まで強力に維持されているということが分かる。ところで90年代以降、OMAの影響でダイアグラムが建築に大きな影響を与えたといえよう。図式化されたものがもつ強さである。しかし、藤本はダイアグラムをさらに遡る。むしろ図式に潜むさらなる「原初的な」抽象性である。誰もが一見して理解できるにも関わらず、誰もが辿り着けないような初源の形式へと遡行することで、藤本はそれを未来に反転させようとしている。
2009/12/07(月)(松田達)