artscapeレビュー

高木こずえ『MID』/『GROUND』

2010年01月15日号

発行所:赤々舎

発行日:2009年11月1日

高木こずえは一作ごとに脱皮し、作品のスタイルを変えつつある。1985年生まれ、25歳の彼女のような年頃では、まだ自分が何者かを見定めるのは無理だしその必要もないだろう。だが、赤々舎から2冊同時に刊行されたデビュー写真集『MID』と『GROUND』を見ると、この若い写真家の潜在能力の高さにびっくりしてしまう。特に『MID』の方は、東京工芸大学在学中にほぼ形ができていたポートフォリオを元にした写真集なので、彼女の作品世界の母胎がどんなものなのかが、鮮やかに浮かび上がってきているように思える。
とはいえ異様にテンションの高いイメージ群が、闇の中に明滅するようにあらわれては消えていくこの写真集を、きちんと意味付けていくのはそう簡単なことではない。というより、高木本人もなぜそれらに強く引き寄せられていくのか、はっきりと理解しているわけではないだろう。ただいえることは、牛、猫、鳥、犬、山羊などどこか神話的な動物たち、エメラルドのような瞳でこちらを見つめる「ロックスター」、闇を漂う赤ん坊といった断片的なイメージ群が、何かを結びつけ、媒介する「中間的」な役割を果たしているように見えることだ。それがそのものであることだけに自足するのではなく、別の何者かへと生成・変容するその過程でフリーズドライされてしまったようなイメージ群──それがおそらくタイトルの『MID』に込められている意味なのだろう。
その生成・変容のプロセスをより加速させ、齣落としのようにめまぐるしく変化していく画像を、今度は一瞬のうちに白熱するミクロコスモスとして凝固させたのが『GROUND』の作品群だ。写真集は2009年2月~3月のTARO NASU GALLERYでの個展のレプリカ的な造りなので、この作品が本来持つスケール感を完全に伝え切ってはいない。だがこれはこれで、高木こずえの創作エネルギーの高まりと集中力を証明してはいる。

2009/12/10(木)(飯沢耕太郎)

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