2022年01月15日号
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artscapeレビュー

藤岡亜弥「私は眠らない」

2010年01月15日号

会期:2009/12/05~2010/12/26

AKAAKA[東京都]

「赤々舎冬の陣」の掉尾を飾る写真集として刊行されたのが、藤岡亜弥の『私は眠らない』。その発売にあわせて藤岡の個展が清澄白河のスペース、AKAAKAで開催された。
若い写真家の家族写真は見飽きるほど見てきたのだが、藤岡のそれはとんでもないパワーを秘めている。たとえば、展覧会のDMや写真集の表紙にも使われている「祖父」らしき人物の頭部の写真。頭蓋骨に皮膚と薄い毛が貼り付いている様を、真上から鷲掴みにするように写しとったこの写真を見ていると、「生命の器」というべき人間の体がこのような形状をしているのだということに、不意打ちされたような驚きを感じる。同じように「母」らしき人物の立ち居振る舞いも、どこか異常なものがある。ひらひらと異様に骨張った手を動かしたり、フラフープを腰で回したりしている姿は、やはり何か見てはいけないものを覗き見しているような気にさせられる。藤岡が伝えようとしている人間の生のあり方は、とりたてて特異なものではないが、その微かなズレや違和を繋ぎあわせていくと、なんともいいようのない「怪物」めいた様相が立ち現われてくるのだ。生きるということが否応無しに引き寄せてしまう哀しみと、滑稽さと、不気味さと、荘厳さと──おそらくもっと的確な言葉で言いあらわすことができそうだが、今はまだ言葉が追いついていかない。いずれにしてもこのシリーズは、2009年に見た中で、最も奇怪で謎めいた作品といえるだろう。
展覧会には大小様々なフレームにおさめた写真のほかに、映像作品も展示されていた。ひとつは写真集の内容をそのままなぞったものだが、もうひとつの「月が見ている」が面白かった。写真集にもその一部がおさめられているのだが、赤い三角屋根の建物を遠景で画面に取り入れた風景写真の画像の集積である。この建物、どうやら丘の上の老人ホームらしいのだが、藤岡の故郷の呉市のどこからでも見ることができるのだという。それでもつねに遠景として建物や樹々の陰から姿をあらわすだけで、近づくことができない。あたかもカフカの『城』のようなその設定もまた、われわれの生の隠喩なのだろう。以前から感じていたのだが、藤岡亜弥という写真家はただものではない。それが本作ではっきりと見えてきたと思う。

2009/12/16(水)(飯沢耕太郎)

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