artscapeレビュー
豊原康久「La Strada」
2010年01月15日号
会期:2009/12/17~2010/12/26
アイデムフォトギャラリー「シリウス」[東京都]
豊原康久は1994年の第19回木村伊兵衛写真賞の受賞者。とはいえ、一般的にはあまり馴染みのある写真家とはいえないだろう。知名度の高い森村泰昌らをおさえての受賞も、やや「意外な」という雰囲気で受け止められたと記憶している。
だがそれから15年あまりを経て、新宿のアイデムフォトギャラリー「シリウス」での新作展を見ると、豊原が淡々と路上スナップの精度を高め、「なんでもない光景からにじみ出るような揺れや機微」を捕獲する技術をここまで鍛え上げてきたことにある種の感動を覚えた。今回の展示の作品はイタリア各地で撮影されたものだが、広角の24ミリレンズで、移動しながら路上の光景を多層的に把握していく手法そのものは、日本で撮影されたものとほとんど変わりはない。ただ、たとえば恋人らしきカップルを撮影した場面の背後に、連なり、重なりあって見えてくる人びとの姿が、よりドラマチックで見る者の好奇心を刺激する。当然といえば当然だが、日本よりもイタリアの方が路上における演劇性が高いということなのだろう。なおタイトルの「La Strada」は「The Street」の意味。フェデリコ・フェリーニの名作映画『道』(1954)の原題でもある。
2009/12/25(金)(飯沢耕太郎)