2021年09月15日号
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artscapeレビュー

王子直紀「KAWASAKI」

2011年03月15日号

会期:2011/01/15~2011/02/27

photographers’gallery[東京都]

王子直紀はこれまでもずっと川崎周辺の路上をスナップしたモノクローム写真を発表し続けてきた。だが今回の「KAWASAKI」展を見て、その完成度が格段に上がり「黒ベタ、縦位置の美学」といえるような強度にまで達していると感じた。以前は不規則に傾き、揺れ動いていくような、ノーファインダーの画面に執着していたのだが、今回の展示作品はどっしりと落ちついて見える。川崎市市民ミュージアムの中庭にある溶鉱炉のモニュメントや、「京浜急行発祥の地」という石碑が写っているということもあるのだが、人物や建物の一部を切り取った作品でも、モニュメンタルに直立するようなあり方が強調されているのだ。王子自身、「歩く速度が遅くなった」と言っていたが、たしかに光景を把握し、捕獲していく姿勢そのものが変化しているということだろう。
もうひとつ気になったのは「鳥獣保護区」「水子地蔵・子安地蔵・子育地蔵」「信号直進 ココ左折」「元祖チヂミ本店」「D & G」といった看板や掲示物の文字が写り込んでいる写真が多いこと。ちょうど中平卓馬展を見たあとだったので、その共通性を強く感じた。ただ、言葉の意味を軽やかに宙づりにしてしまう中平の写真と比較すると、王子の場合は塗り込められたようなモノクロームの調子もあって、文字の物質性(呪術性といってもよい)がより強調されているように感じる。いずれにせよ、「KAWASAKI」という場所へのこだわり方が、彼の作品世界中に凝固し、揺るぎないものになってきていることは確かだ。

2011/02/02(水)(飯沢耕太郎)

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