artscapeレビュー
artscape開設15周年記念企画「Dialogue Tour 2010」Vol.7──トーク&ディスカッション:MACとhanareと保育所設立運動
2011年03月15日号
会期:2011/02/22~2011/03/06
Social Kitchen[京都府]
全国8カ所のアートスペースを巡るartscapeの開設15周年記念企画「Dialogue Tour 2010」第7回目。このツアーイベントに出席するのも初めてだったのだが、会場のSocial Kitchen(京都市)に訪れたのも初めてだった。山口市にある一軒家のアートセンター「MAC(Memachi Art Center)」の運営者会田大也さんと、1960年代に京都で起こった若い女性研究者達による保育所開設運動の中心メンバーであった坂東昌子さんをゲストに開催された今回のプログラムは、MACやSocial Kitchenのような現在各地に存在する「ミニ文化施設」の活動意義について、またそれらの今後の活動のあり方について、保育所開設運動の事例を参考にしながら考えるというものであった。はじめに会田さんによるMAC(Memachi Art Center)の活動が紹介され、次に坂東さんから保育所設立運動のプロセス、その社会的背景などが丁寧に語られた。どちらも興味深い内容であったが、今回の主題にそって考えるならば、個人的には坂東さんによって語られた、保育所設立までに自宅を開放するというスタイルで始められた「共同保育所」の活動が特に鍵になる気がした。そこでは、女性であり、研究者であり、そして母である人々の生活と子育てに関する切実な願いや苦労が前提にあった。ここで取り上げられる「ミニ文化施設」の活動とはもちろん動機も主旨も異なるが、この「ミニ文化施設」の各活動が「ユルさ」や「遊び」を共通項として成立しているとすれば、逆に、多くの人の切実な思いや問題として必要とされるものはどんなことなのだろうかと以来考えている。「ミニ文化施設」が同じ環境や趣向の人々が集い循環する身内のコミュニティになりがちという問題のヒントにもなるかもしれない。食をベースにしたSocial Kitchenの活動に関していえば、個人的には期待している。今回もおいしい玄米おにぎりや総菜など、素敵な軽食がついていたが、食事という生活の基本的な喜びは文化的活動ともはや切り離せなくなった。そういえば、坂東さんがトークを始める前に「私の話より、そこにあるおいしいごはん食べるほうがさきでしょう!」と言って会場を和ませていたな。なににしろ濃厚な内容で勉強になった。できることなら他の回も参加したかった。
2011/02/24(木)(酒井千穂)