artscapeレビュー

星玄人「大阪」

2011年03月15日号

会期:2011/02/11~2011/02/20

サードディストリクトギャラリー[東京都]

星玄人はサードディストリクトギャラリーのメンバーのひとり。これまで同ギャラリーで、新宿界隈を中心に撮影したスナップショットを展示してきたが、今回は大阪という新たなテーマに取り組んだ。2010年11月、12月、11年1月に3回足を運び、集中して撮影した成果だという。
もともと彼のスナップは、撮影する自分を透明化することなく積極的に被写体の前に晒し、火花が散るような視線の交錯を写真に刻みつける力業である。この「大阪」でもそのやり方は貫かれているが、被写体との距離感が微妙に違っているように感じる。やや引き気味に、あらかじめ写真のフレームを舞台として設定し、そこに一癖も二癖もある大阪の人物たちを呼び込むようにして撮影しているのだ。こちらから相手の領域を侵していくような緊張感や不穏な気配は薄らいだものの、逆に人物たちが勝手気ままにポーズを決め、自己主張している面白さが出てきた。大阪人のなかに色濃くある演劇的な資質を、巧みな舞台設定と隅々までシャープに、等価に照らし出すストロボ光の効果で引き出すことに成功しているのだ。会場には西田佐知子の昭和歌謡が流れ、大阪のあの独特の極彩色の空間に、さらに情緒たっぷりの彩りを添えていた。
「大阪」はまだ撮り終えたわけではない。だが、この手法は他の都市でも活かすことができそうだ。星自身も充分に自覚しているようだが、昭和の匂いがする都市空間やエネルギッシュだが哀感が漂う人物たちは、いまやどんどん消えつつある。「まだ間に合ううちに」、その姿を記録に留めておくことが必要になってきている。

2011/02/13(日)(飯沢耕太郎)

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