artscapeレビュー

川俣正「フィールド・スケッチ」

2011年03月15日号

会期:2011/02/04~2011/03/21

NADiff a/p/a/r/t[東京都]

川俣正は東京藝術大学美術学部在学中の1976年から数年にわたって、中古のカメラでスナップを撮影し、L判のサービスサイズにプリントするという試みを続けたことがあった。今回の展示はそのなかから選ばれた630枚の写真を15枚ごとのブロックに分けて、壁にモザイク状に展示している。かなり褪色が進んだり、染みが浮き出したりしているような写真もあり、チープなプリントに時の厚みを感じさせる奇妙な物質性が生じているのが興味深かった。
内容的には、例えば人間の顔のような特別な意味を持つ被写体は注意深く避けられている。これらの「フィールド・スケッチ」の成果は後になって「室内の壁や天井や何の変哲もない一角を写した『宙吊りの部屋』、街中で日常の何気ない物体を写した『ファウンド・オブジェクツ』、光、あるいは境界をモチーフに撮影された『反射と透過』」という3つのセクションに分類された。さらに時間の経過に従って、少しずつアングルを変えながら連続的に被写体を撮影していく、シークエンスの手法が多用されているところにも特徴がある。つまり、20歳代前半のこの時期に、川俣はすでに後年のインスタレーション作品につながる対象のシステム化、多層化、連続性の導入などの要素を作品に取り入れつつあったということだろう。
逆にいえば、彼の写真という表現メディアの使い方は、ロジカルかつ抑制的なもので、あまり揺らぎやふくらみを感じることができない。ただそのなかに一枚だけ、差し伸ばした自分の手を上から撮影した写真があって、その妙に生々しいたたずまいがなぜか強く目に残った。

2011/02/12(土)(飯沢耕太郎)

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