artscapeレビュー
黒田光一「峠」
2011年04月15日号
会期:2011/03/15~2011/03/27
AKAAKA[東京都]
黒田光一の『弾道学』(赤々舎、2008)は、スケールの大きな写真作家の誕生を告げるいい写真集だった。ただ、静岡県御殿場市の北富士演習場で撮影された凄絶な美しさを持つ夜間演習の弾道の光跡のイメージと、どちらかと言えば雑駁な街頭スナップとを、うまく関係づけるのが難しかったと思う。それから3年ぶりの新作の発表になる今回の「峠」では、あえて被写体の幅と距離感を狭めることによって、緊張感と集中力を感じさせる展示となった。
被写体になっているのは、彼が日々撮影し続けている、これといって特徴のない街の眺めである。鷹野隆大の『カスババ』を、よりクローズアップで展開したようにも見えなくもない。縦位置に切り取られ、壁にピンで止められたり、机の上にテープで貼付けられたりした40点あまりの作品では、都市を表層のつらなりとして見る視点が貫かれている。そこから浮かび上がってくるのは「もっともらしく整った景色」に刻みつけられた、「生き物と、やはり生き物の自分とのおびただしいクラッシュの痕跡」だ。それらの手触りを、傷口を指先で確かめるように写しとるというのが、黒田の今回のもくろみと言えるだろう。その試みは展覧会の会期中も続けられており、震災以後の東京を撮影した画像を上映して見せるコーナーも設けられていた。まだ途中経過という感じではあるが、その作業の全体が見渡せるようになれば、見所の多い作品として成長していくのではないだろうか。
2011/03/24(木)(飯沢耕太郎)