artscapeレビュー
松井沙都子 展「Phantom hides on the wall」
2011年04月15日号
会期:2011/03/08~2011/03/27
neutron kyoto[京都府]
松井沙都子の新作展。ステートメントには「複数のモチーフを組み合わせて作った絵画」と記されているが、その平面作品は、絵画ともコラージュともつかない微妙な印象。画面の線や色ははっきりしているが、ところどころの輪郭が消えて図と地がつながっていたり、断片的に重なっているため、イメージは曖昧で画面を浮遊しているようにつかみどころがない。この制作工程がまた複雑だ。モチーフとして選ばれる「既視感のある形態」は、まず作家の手でドローイングもしくはトレースされる。その後、スキャンしてPCで編集し、図案化したものをカッティングシートなどに出力し、マスキングシートとして画面に貼付け、絵の具で塗装する。このように手の込んだ作業で画面に表わされるイメージは、板の上で押しつぶしたか押しのばしたかのように平坦な印象で、もともとの物質感も希薄にしているのだが、ただそれらは、すれすれのところで既視感を留め、見る者に違和感を与える。今展で発表された作品では、モチーフは以前よりも具体的なイメージを想像できるものだったのだが、かえってそれが功を奏し、しばらく引き摺られるような微妙な違和感となって作品の魅力の強度を高めていた。
2011/03/13(日)(酒井千穂)