artscapeレビュー
パウル・クレー展──おわらないアトリエ
2011年04月15日号
会期:2011/03/12~2011/05/15
京都国立近代美術館[京都府]
ベルンのパウル・クレー・センターが所蔵する作品を中心に約170点で構成された本展には日本初公開の作品も数多く含まれている。ただ、今展はこれらの作品展示からクレー芸術の魅力を伝えるというものではなく、クレー自身が重視していた「制作プロセス」に焦点をあて、作品がどのようにしてつくられたのかを検証することをテーマにしている。作品を体験する観点をいかに多様化、多角化するのかを探るというそのコンセプトのもとにピックアップされた作品資料は、クレーのアトリエ写真に記録されているものや、自ら「特別クラス(Sonderklassse)」と名付けて手元に置いていた作品、そして制作上の具体的な技法を示すものなど。画面を切断したり反転したりして再構成された作例、「油彩転写」とその素描、絵画の表と裏の面を同時に見せる展示や小さなアトリエ空間の再現など、工夫された展示からは作家自身の物語も濃厚にうかがえる。クレー作品の色彩やタイトル、形態などについて興味がかき立てられると同時にその創作の源泉をたどるような楽しさもある内容で見応えのある展覧会だ。
2011/03/11(金)(酒井千穂)