artscapeレビュー

2011年05月01日号のレビュー/プレビュー

安慶田渉 渦巻く思考と溶ける彫刻

会期:2011/03/16~2011/04/02

MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w[京都府]

鉄線を渦巻き状に加工したピースからなる巨大な人体像、球体が溶解したかのような石彫、石彫と同様の形態をした樹脂製の小品などが大量に並び、さらには制作に用いる道具類も演出として展示されていた。広大なスペースを持つ会場を相手に、まるで自身の全ポテンシャルを注ぎ込んだかのような情熱的な個展だった。これが初個展だと聞き2度驚いたが、だからこそここまでやれたのかも。このまま燃え尽き症候群に陥らないことを切に願う。

2011/03/26(土)(小吹隆文)

ソーシャルダイブ 探検する想像

会期:2011/03/18~2011/04/11

3331 Arts Chiyoda[東京都]

あえて言うが、昨今の若いアーティストにとって、自らの作品に社会性を帯びさせることが、ある種の強迫観念となっているのではないだろうか。それが、不幸にも、結果として作品の魅力を著しく損なっているように思われる。本展で発表された作品の多くも、そうした論理に巻き込まれているように見えてならなかった。プロジェクトの成果を披露するのはよい。しかし、その行為なり運動なりを展覧会という場で発表する以上、必要なのは、その装置をインスタレーションとして見せることや、その過程を要約した映像をダラダラと見せることなどではなく、それらを凝縮した「作品」を見る者に突きつけることである。なぜなら、彼らが勝負しなければならないのは、そのプロジェクトの体験を共有していない、見ず知らずの鑑賞者だからだ。この当たり前の事実をないがしろにしてしまうところに、「社会性」という免罪符を手に入れさえすればよいと考えるアーティストの大きな甘えがある。「プロジェクト」と「作品」をそれぞれ自立的に分けて考えてこそ、ほんとうの意味で「社会的」になりうるはずだ。

2011/03/27(日)(福住廉)

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伊藤文化財団設立30年記念 寄贈作品の精華

会期:2011/03/26~2011/07/03

兵庫県立美術館[兵庫県]

1981年の設立以来、兵庫県立美術館に対し、作品や図書の寄贈、展覧会、コンサートへの援助を続けてきた伊藤文化財団。その設立30年を記念して、代表的な寄贈作品からなる展示が行なわれた。絵画、素描、立体など約160点が展示されたが(会期中に展示替えあり)、大作ばかりでなく、安井曾太郎と小出楢重の素描集など小品にも見るべきものが多かった。企業や富豪が財団を設立して地元文化を支えるのは、米国ではごく一般的だが、残念ながら日本では根付いていない。この国内では稀有な関係を顕彰する意味で、たとえ常設展示の一部とはいえ、本展には大きな意味があったと思う。

2011/03/29(火)(小吹隆文)

第14回岡本太郎現代芸術賞展

会期:2011/02/05~2011/04/03

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

毎春恒例の岡本太郎現代芸術賞展。生誕100年にあたる今回は、818点の応募作のなかから入選した27組のアーティストによる作品が展示された。昨年よりは全体的に作品の出来がよいように見えたが、それにしても毎回思うのは、予定調和的な会場構成だ。広い会場に作品が満遍なく設置されているため、たしかに鑑賞する側にとっては非常に都合がよい。しかし、その空間を埋めるために作品が選出されている印象が否めないのも事実だ。美術館が企画したグループ展ならまだしも、新人を発掘する公募展の場合、こうした会場ありきの選出は本末転倒というほかない。何より、このような予定調和こそ、岡本太郎が徹底して侮蔑していたことを思えば、いっそ会場に奇妙な隙間が生まれたとしても、受賞に値する少数精鋭の作品だけで展示を構成することも考えるべきではないか。「展覧会」という制度をいつまでも自明視していては、岡本太郎に追従することはできても、批判的に乗り越えることなど到底かなわないだろう。

2011/03/30(水)(福住廉)

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加藤芳信 展

会期:2011/03/22~2011/04/02

ギャラリー川船[東京都]

「点を打ち続けて40年」、加藤芳信の個展。主に80年代に制作された点描によるモノクロームの細密画と、柔らかな曲線による木彫作品などを展示した。一口に点といえども、その形態はさまざまで、墨のかたちと濃淡を使い分けながら、画面に独特のマチエールを生んでいることがわかる。点描という手法はえてして画面に偏執的な内向性をもたらすものだが、加藤のそれは同時に果てしない外向的な拡がりを感じさせるところが大きな特徴だ。艶めかしさを感じさせる木彫は、空間を支配する強いフォルムを獲得しながらも、ぽっかり空いた穴の内奥に誘い込まれるようなエロスを覚えさせる。

2011/04/02(土)(福住廉)

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