artscapeレビュー

2012年10月15日号のレビュー/プレビュー

悪魔のしるし「倒木図鑑」

会期:2012/09/27~2012/09/30

KAAT 神奈川芸術劇場[神奈川県]

建築学科出身の危口統之が主宰する悪魔のしるしの「倒木図鑑」を観劇した。これもKAATという場を生かした建築的な舞台装置(神社に見立てたKAAT、あるいはシーソーの構造によって3人の特別観客席とバランスをとる劇場。そして観客が去り、平行が崩れ、壊れる劇場)や物語の設定、また建物の用途の読み替えや結婚式/葬儀の形式性がおもしろい。一方、筆者にとっては、物語の推進力が弱かった。内容やエピソードが普遍化しづらい内輪の印象があり、やや混乱気味で、もうちょっと整理できたのではかと思う。

2012/09/27(木)(五十嵐太郎)

小村希史「新作絵画2012」

会期:2012/09/04~2012/09/29

メグミオギタギャラリー[東京都]

ブラッシュストロークを生かした人物画で知られる小村の新作展。今回はリアルな描写とブラッシュストロークの対比を強調したり、たとえば馬の顔や足を半分消して描いたり、絵画的というより映像的になった印象だ。ウルトラセブンや仮面ライダー(の仮面)をモチーフにしたかと思えば、ゲルハルト・リヒターみたいに画像を筆でぼかした作品もあり、バリエーションが増えたというか、表現の振幅が膨らんでいる気がする。

2012/09/28(金)(村田真)

リー・ミンウェイ展「澄・微」

会期:2012/08/28~2012/10/21

資生堂ギャラリー[東京都]

台湾生まれ、アメリカで美術を学んだアーティストによる個展。大きなギャラリーには、縁台の上にヒモで結んだ木箱が16点置かれている。縁台に上がり、ヒモを解いてフタを開けると着物がたたんである。公募で集めた布製品を、それにまつわる思い出とともに収めたもの。これは、母の縫った上着を着ることで幼稚園に行く勇気が出たという作者の幼いころの思い出が発想の原点になっているらしい。小さいギャラリーには小屋を建て、なかに机と筆記具を置き、観客が思いを伝えたい相手に手紙を書けるようにしている。封をしない手紙は壁のラックに差し込んでおけば別の観客に読んでもらえるし、宛先を書いて封をした手紙はスタッフに渡せば投函してもらうことができる仕組み。どちらもひと昔前に流行した観客参加型のコミュニケーションアートといえるが、まだこういうことやってるアーティストがいるんだあというのが正直な感想。古い新しいはともかくとして、ぼくは参加したいとは思わないなあ。他人の思い出がつまった布製品なんて興味ないし、画廊回りの途中でだれかに手紙を書きたいとも思わないし。まあ個人の好きずきですが。

2012/09/28(金)(村田真)

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TOKYO PHOTO 2012

会期:2012/09/28~2012/10/01

東京ミッドタウンホール[東京都]

4回目を迎えたTOKYO PHOTO。昨年は震災の影響もあって、やや盛り上がりを欠いたのだが、今年は会場の規模も2倍あまりにふくらみ、60あまりのブースで意欲的な展示を見ることができた。写真作品を中心としたアートフェアとして、ほぼ定着したといえるのではないだろうか。
今年の特徴は、タカ・イシイ・ギャラリー、小山登美男ギャラリー、TARO NASU、ツァイト・フォト・サロン、プォト・ギャラリー・インターナショナルなど、日本を代現するギャラリーだけでなく、ガゴシアン・ギャラリー(ニューヨーク、ロンドン、パリ等)、カメラ・ワーク(ベルリン)、ギャルリー・ヴュ(パリ)、マイケル・ホッペン・ギャラリー(ロンドン)、ギャルリー・カメラオブスクラ(パリ)、マグダ・ダニス・ギャラリー(上海)など、アメリカ、ヨーロッパ、アジアのギャラリーも多数参加するようになってきていることだ。すでに写真作品の市場価値が確立している欧米でも、日本の写真の状況への関心が高まっていることのあらわれといえる。ほかにも青幻舎、蔦屋書店、リブロアルテ、SUPER LABOなど、写真集を中心に販売しているブースがあり、石元泰博追悼展、中国・北京の三影堂写真芸術センターの選抜展、エール・フランスの秘蔵写真のコレクション展なども、会場内で開催された。若い層を中心に、観客もかなりたくさん入っているようだった。
問題は、実際に作品が売れているかどうかだが、「昨年よりはまし。だがやはり厳しい」という声がいろいろなギャラリーから聞こえてきた。総じて、すでに評価の高いクラシックな作品にくらべて、現代作家の作品はどうしても動きが鈍いようだ。日本に写真のマーケットを確立しようという主催者側の意気込みは充分に伝わってくる。観客の意識がもう少しポジティブに変わってくることが必要になるだろう。

2012/09/29(土)(飯沢耕太郎)

Under 30 Architects exhibition 2012 30歳以下の若手建築家7組による建築の展覧会

会期:2012/09/07~2012/10/06

ODPギャラリー[大阪府]

大阪のU-30の展覧会へ。今年で3年目だが、学生の時から知っている出品者も多く、ゼロ年代に増えた卒計イベントとの連続性で見ると興味深い。通常こうした展覧会のシンポジウムでは、ヨイショやほめ言葉になりがちだが、U-30ではむしろ40代組の建築家からダメだしをされるのが特徴だろう。今回も五十嵐淳のディスり芸が炸裂した。また平田晃久からも手厳しい意見が出される。出品者はこれに耐え、またがんばって反論する。今回は特に中盤で米澤隆の中二病、新しい墓地のランドスケープを探求する関野らんらが、集中砲火を浴びた。U-30の打ち上げでも、批判された出品者との議論が続く。シンポジウムでは時間切れになってしまうが、この部分も公開されるとさらに面白いだろう。

2012/09/29(土)(五十嵐太郎)

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