artscapeレビュー
2012年10月15日号のレビュー/プレビュー
桐島、部活やめるってよ
映画『桐島、部活やめるってよ』を見る。緻密に構築されたスクールカーストが、トップに位置する桐島が姿をくらますことで、パズルのピースが崩れだし、関係性のネットワークに些細な変化がもたらされる。そして『ゾンビ』を伏線として、最後の屋上ですべてが交錯するさまを、多視点手法によって、丁寧に丁寧に描く。学校という閉ざされた空間は、まぎれもなく世界そのものである。そして映画部のメンバーたちの愛おしいこと!
2012/09/21(金)(五十嵐太郎)
東日本大震災災害支援チャリティーオークション「サイレントアクア2012」
会期:2012/09/15~2012/09/30
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]
京都市立芸術大学の学部生、院生、留学生、教員、旧教員、卒業生、修了生などが出品展示する東日本大震災災害支援チャリティーオークション。今回2回目の開催である。作品はどれもハガキサイズほどの小さなものだが、入札も3,000円からという多くの人が参加しやすい設定。詳しい人にはすぐにわかってしまうだろうが、展示作品の作家名はすべて伏せられているため、落札したときにはじめて誰の作品かを知るという点も面白く、見る側にとっては先入観を持たずに好きな作品を探す楽しみもある。会場の作品番号は630まであり、大勢の作家が参加していたが、収益という金銭面だけでなく、物理的に顔の見えない人と人をつなぐという意味でも芸術大学(と芸術大学に関わる人々)の可能性を感じる。このオークション開催による今後のさまざまな発展にも注目したい。
2012/09/22(土)(酒井千穂)
明倫茶会「半農半Xな茶会」
会期:2012/09/22
京都芸術センター[京都府]
さまざまな分野で活躍する人を座主に迎え、毎月、京都芸術センターで開催されている「明倫茶会」。茶会といっても茶道はあまり関係なく、毎回の座主の個性に合わせ自由な趣向で行なわれているユニークな茶会だ。9月は「半農半X研究所」代表の塩見直紀さんが座主で、秋分の日に開催された。当日は1時間ほどの席が計4回設けられていたのだが、各回ごとに「半農半芸」「晴耕雨創」「敬天愛人」「則天去私」という四文字のテーマがあり、「天職発見のためのミニワークショップ」がそれぞれの席で行なわれた。塩見さんが提唱する「半農半X」とは、各人が“持続可能な”小さな「農」のある暮らしをし、自分の才能や好きなこと(X)を世に活かす生き方、暮らし方をすること。私が参加した「半農半芸」の回では「『半農半芸』で生きるとしたらどんな芸で表現するか」や、「人生で叶えたいことを自由に」書き込むワークシートが配布され、参加者が自己紹介をかねてそのひとつを披露するという時間が設けられていた。茶室の床の間に飾られた丹波の毬栗、生け花として飾られた綾部の稲穂、お菓子、秋分の日を含めたしつらいなども「一期一会」を尊ぶ塩見さんならではの趣きで楽しかった。ただ少し残念だったのは、参加者が多かったせいもあるのだろうが、ワークショップが長くなって、座主自身のお話の時間があまり取られなかったこと。1時間の茶会なので欲張りな希望だが。
2012/09/22(土)(酒井千穂)
《こもれ日に降る丘 遊学館》、被災地訪問
[宮城県]
研究室のプチゼミ合宿を行なう。まず久米設計の《こもれ日の降る丘》へ。震災後、被災者を受け入れていたが、今はすっかり日常に戻っている。せんだいメディアテーク以降の開かれた透明な公共施設の典型例と言えるだろう。その後、矢本や東松島周辺の被災地を一年ぶりにまわる。打ち上げられた船はほぼ片付いていたが、半壊状態の住宅はけっこう残っている。夕方、研究室の秘書の実家、涌谷の佐藤邸へ。震災で壊れ、実際に建て替え予定の倉庫のコンペを行なう。学生にとっても、リアル施主を相手にプレゼンテーションする貴重な機会である。審査委員長のおばあちゃんが選んだのは、もっともシンプルな川崎亮の案。そのほか、家族のそれぞれから個人賞が贈られる。そのまま深夜まで飲んで宿泊する。
2012/09/22(土)(五十嵐太郎)
メリーゴーランドのひきだし
会期:2012/09/23
ブリコラージュファクトリー[大阪府]
今年の1月に、中之島4117のプロジェクト「RACOA」の企画による「大人が学び合うこどもの声」という研修バスツアーに参加して以来すっかり、四日市の子どもの絵本専門店「メリーゴーランド」のオーナー、増田善昭さんの魅力的な人柄のファンになってしまった(関連記事=http://artscape.jp/report/review/10021505_1735.html)。大阪で「メリーゴーランドのひきだし」というイベントが開催されるのを知り、すぐに申し込んだ。会場が、たまたま古くからの友人が家族で営む木のおもちゃのお店だったことにも、このイベントの企画者が「RACOA」バスツアーに参加したメンバーのひとり、駒崎さんだったことにも驚いたのだが、その駒崎さんもあのバスツアーの際に、増田さんやそこで「あそびじゅつ」というワークショップ教室の講師をしている(重盛)ペンギンさんの人となりに魅了されたのだそう。「RACOA」の企画を通じて広がった素敵な縁を知る機会でもあった。当日は、はじめに増田さん自身の思い出や子どもたちとのやりとりのエピソードをまじえた絵本紹介のトークがあり、休憩を挟んで、ペンギンさんによるスケッチのワークショップ、二人のギターと歌によるライブ演奏が行なわれた。参加者は子どもや本に関わる仕事をしている人たちが多かったようだが、会場は満員。遠回しな表現や難しい言葉など使わず、ストレートに自らの感覚と考えを皆に発する増田さんの話には圧倒されるような説得力と魅力がある。また、その活動の在り方は、アートに関わるという立場でも学ぶことや揺さぶられるものが多く、またしても豊かな気持ちになっていく時間だった。会場の「ブリコラージュ」を訪れたのは初めてだったのだが、元々、家具工房だったというその広い空間では、ものづくりのワークショップやアートイベント、コンサートなどもときどき開催されているのだそう。地域の人々に親しまれているのを感じる場であったのも印象に残る。こんな場所はいろんなところにあるのかもしれない。もっと知りたいという興味もかき立てる機会であった。
2012/09/23(日)(酒井千穂)