artscapeレビュー
2011年02月15日号のレビュー/プレビュー
泉イネ「本の記憶」
会期:2010/11/18~2011/01/25
メゾンエルメス1階ウィンドウ[東京都]
エントランスの左右のショーウィンドウにインスタレーション。「語り継がれる“ものがたり”」をテーマとするエルメスだから、「未完本姉妹」シリーズを発表してきた泉イネに白羽の矢が立ったのもうなずける。モンドリアンの幾何抽象のごとき黒い枠の棚に、白、黒、グレーのカバーをかけた本を並べ、絵や写真、エルメスの商品などを配している。全体にシックで思慮深げ。エルメスのディスプレーに使われたとの見方もできるが、ここまでやれればエルメスをインスタレーションに取り込んだというべきだろう。
2011/01/24(月)(村田真)
秦雅則/エグチマサル「写真/物質としての可能性」
会期:2011/01/25~2011/01/30
企画ギャラリー・明るい部屋[東京都]
2009年4月にスタートした企画ギャラリー・明るい部屋の活動期間は、あらかじめ2年間ということになっているので、だいぶ終わりが近づいてきた。今回は中心メンバーのひとりの秦雅則と、何度か明るい部屋で個展や二人展を開催しているエグチマサルによる意欲的な展示である。
秦とエグチは2010年8月8日から2011年1月24日まで、写真作品のデータをインターネットでやり取りしながら、加工・改変していく作業を続けた。秦がつくった作品にエグチが変更を加え、それをまた秦に送り返す。画像の一部をかなりはっきりと活かしている作品もあれば、まったく別の画像につくり変えてしまう場合もある。そのやり取りのプロセスが、そのまま228枚の作品(壁に214枚、テーブル上に最終日に制作された作品が14枚)としてギャラリーに展示されていた。作品の一枚一枚の変幻の様子も興味深いが、それよりもプロセス全体が一挙に見えてくることに注目すべきだろう。デジタル化以降の、不安定で流動的な写真画像の「物質としての可能性」を、しっかりと確認していこうというユニークなアイディアの企画といえる。
なお、現代美術系のウェブサイトFFLLAATT(http://ffllaatt.com)では、同時期に秦雅則とエグチマサルによる「写真/仮想のイメージとしての可能性」展(2011年1月1日~2月28日)が開催されている。彼らの作品から42枚をシャッフルして取り出し、無記名でウェブ上にアップするという試みである。画像は自由にダウンロードすることができる。このような「写真の物質的価値をまったく無視する」展示をぬけぬけと並行してやってしまうあたりが、なかなか頼もしい。今のところはまだ試行錯誤の段階だが、こういう実験から何かが芽生えてきそうな気がする。
2011/01/25(火)(飯沢耕太郎)
SHIBU Culture──デパートdeサブカル
会期:2011/01/25~2011/02/06
西武渋谷店 美術画廊[東京都]
80年代には池袋店に次いでよく通ったものだが、21世紀になって入るのは初めてかもしれないと思いつつ、すっかりブランドショップ街と化した西武渋谷店B館の1階を抜けてエレベータで8階へ。ロリコン系の絵画、イラスト、写真、人形などを集めたサブカルならぬ「シブカル」展が開かれている。中身は、昨夏、森下泰輔の企画で川崎市市民ミュージアムでやった「ガーリー2010」と重なる(出品作家は松山賢らを除きほとんど重なってない)が、デパートでもいよいよこういう作品をあつかう時代になったか、さすが腐っても西武、と少し見直したのも束の間、やっぱりオチましたね。会期途中に中止の知らせ。「展示内容が百貨店にふさわしくない」との苦情が寄せられたそうだ。それじゃなにかい?「おたくは百貨店にふさわしくない」とクレームをつければ店をたたむつもりかい。そんな理不尽な苦情に応じてなにが「サブカル」だ。やっぱり西武はオチるとこまでオチたなあ。いやそんなことより気をつけなければならないのは、こうした苦情が昨年暮れに可決した東京都のいわゆる「性描写規制」条例改正案と連動しているのではないかということ。そもそも苦情を寄せたのは、西武によれば複数の個人だというが、出品作家のひとりによれば「ある公的団体」とのことで食い違っている。いずれにせよ確かなことは、とてもイヤーな流れになりつつあるということだ。
2011/01/25(火)(村田真)
アイ・ウェイウェイ「キューブ・ライト」
会期:2010/11/19~2011/02/19
ミサシンギャラリー[東京都]
東京R不動産で見つけたという町工場跡の空間いっぱいに、一辺4メートルほどのパイプ仕立ての立方体が鎮座。その内部と表面に一辺2センチほどの琥珀色の正8面体を数万個、数珠つなぎにぶら下げている。内部から照明を当てると、巨大なシャンデリアだ。これは夜見たほうが美しいかも。ところでこの作品、この空間に合わせてつくったのかと思ったら、そうではなく、2008年の作品だそうだ。サイズ的にもぴったりだし、オープニングを飾るにもふさわしいし。
2011/01/27(木)(村田真)
鬼塚勝也 ART展:RED CORNER「グローブを筆に変えて」
会期:2011/01/22~2011/02/12
FARM the salon for art,Tokyo[東京都]
六本木の芋洗坂を歩いてると、なにか展覧会をやってるのでのぞいてみる。縦長のキャンバスにボクシングのグローブと目がシルクスクリーンで刷られ、さまざまな色が塗られている。要するにウォーホルの絵画技法と同じ。色彩感覚は悪くないが、どこか素人っぽさを残している。作者はだれだろう、鬼塚勝也? 聞いたことあるなあ、まさかあの、元ボクサーの? 帰ってネットで調べてみたら、まさかの鬼塚でした。これは驚き。すべて自分でつくっているのかどうかわからないけど、かつてセコンドを務めた片岡鶴太郎の絵よりはるかにイイ。
2011/01/27(木)(村田真)