artscapeレビュー
2011年02月15日号のレビュー/プレビュー
中川あずさ──遠い国
会期:2011/01/18~2011/01/23
アートスペース虹[京都府]
作家は成安造形大学洋画クラスの研究生。花柄やストライプ模様など、寄せ集めた複数のスカーフを撮影した写真をもとに描いたという一連の作品が展示されていた。自身の夢やあこがれ、理想などを薄いスカーフの脆弱なイメージに重ねているのだが、布の襞や光沢のある柔らかい質感の描写が丁寧で美しく、繊細な感覚を思わせる趣きが感じられた。技術的にはまだ向上の可能性もうかがえるが、近づいたり離れたり、角度や距離を変えると色彩の印象もまた変化して見える、表情豊かな作品。今回が初個展だったそうだが、堂々とした佇まいと繊細な感覚のギャップも記憶に残る展示だった。
2011/01/23(日)(酒井千穂)
没後20年 孤高のモダニスト 福田勝治 写真展
会期:2011/01/15~2011/01/29
ときの忘れもの[東京都]
福田勝治は1899年生まれだから、木村伊兵衛より2歳、土門拳より10歳年長の写真家。戦前から戦後にかけての一時期は、『女の写し方』(アルス、1937)が当時としては異例の売行きを示すなど、その大衆的な人気は木村、土門を凌いでいたほどだった。ところが1970年代以降になると、ほぼ忘れられた存在になり、91年に没後はほとんどその業績を顧みられることもなくなった。その大きな理由は、彼の作風が極端な耽美主義であり、リアリズム、スナップショットといった日本の写真表現の主流からは相当に隔たっていたためだろう。
今回の福田勝治展は、彼の戦後の代表作である《光の貝殻(ヌード)》(1949)、《心の小窓(藤田泰子)》(同)、《Still Life(静物)》(1952)と、1955年のイタリア滞在時にポンペイ、オスティアなどで撮影された風景作品15点を展示するもので、規模は小さいがひさびさの彼の回顧展となるものである。むしろデジタル化以降の多様化し、拡散していこうとする写真の状況において、福田の練り上げられた美意識と深みのあるモノクロームのプリントの技術を味わうことは意義深いのではないだろうか。彼のような、自己の美的世界を純粋に探求していこうとする写真家たちが、どうしても片隅に追いやられてしまうことにも、日本の写真表現の歪み(それを必ずしも否定的に捉える必要はないが)が端的にあらわれているようにも思える。
2011/01/24(月)(飯沢耕太郎)
ザ・リングIII
会期:2011/01/14~2011/02/13
フォーラム・アート・ショップ・エキジビション・スペース[東京都]
もともと指輪や腕輪などのジュエリー展から出発した「リング」だが、いつのまにかジュエリーから離れて作家同士の「連鎖」の意味に変わっている。出品作家は今村源、作間敏宏、徳田憲樹という関西度の高い面々。今回は3つの壁にそれぞれの作品を展示するほか、3人と主催者を加えた4者のあいだで透明ボックスを巡回させ、応答しながらコラボレーションした「コラボックス」も展示している。でもこういうのって、やる側にとってはおもしろいかもしれないけど、見る側にとってはそうでもないんだけど。
2011/01/24(月)(村田真)
青木千絵 展──URUSHI BODY
会期:2011/01/07~2011/01/28
INAXギャラリー2[東京都]
黒光りする漆塗りのスタイロフォームから女性の下半身がニョッと出ている。床置きもあれば、天井から吊るされてる(足が床スレスレで着いてない)のもある。こういうのはとまどうなあ。別に下半身にとまどうんじゃなくて、奇妙な形態を見せたいのか、それとも漆の質感を見せたいのか、つまるところ彫刻なのか漆芸なのかがよくわからないのだ。そんなのどっちでもいいという見方もあるが、しかし彫刻を志向しつつ漆の質感にも頼ってる的なあやふやさが感じられ、どうにも歯がゆいのだ。はたして両者はアウフヘーベンされるのだろうか。
2011/01/24(月)(村田真)
ザ・ラウンジ
会期:2011/01/13~2011/01/27
ブルガリ銀座タワー8階プライベート・ラウンジ[東京都]
六本木の住宅展示場、椿山荘の庭園、フランス大使館の官舎など、展示空間でない場所ばかりを選んで若手アーティストの作品を展示してきたユニークな団体「団・DANS」。今回、彼らが目をつけたのがブランドショップのビルの上階に位置する、われわれにはほとんど縁のないプライベート・ラウンジ。へえーこんなムダな空間があるんだと感心しつつ、フロア内に点在する20人ほどの作品を見る。音を聞くと色が見えるという共感覚をテーマにした四宮優のピアノ・インスタレーションは労作だが、説明を聞かなければおもしろさが伝わってこない。山田啓貴と田中千智の絵画はすばらしいが、この場所でなくてもいいだろう。その他、この場所から浮いてるもの、ハマりすぎてるものが多数を占めるなか、4本脚の椅子の1本に樹木のような彫刻を施した久村卓の作品は、ひかえめでありながらいじけることもなく超然と自己を主張していて、村田真賞だ。
2011/01/24(月)(村田真)