artscapeレビュー

青木万樹子展「心を照らす」

2016年05月15日号

会期:2016/04/09~2016/04/23

CAS[大阪府]

バーネット・ニューマンの連作《十字架の道行き》からインスピレーションを受け、20号キャンバスの絵画14枚が並ぶ。ただし時系列順の場面展開はなく、モチーフの色や形が連想的に変奏されながら、始めも終りもない流れの中に浮かんでいるような感覚を受ける。例えば、縦に真っ二つに切ったリンゴの断面の形は、手前に突き出された尻のエロティックな輪郭と呼応する。その曲線は、中国雑技団のようなブリッジのポーズで柔軟性を見せる人体の形象へと引き継がれる。モチーフの多くは、単純な形象ながら、ぼんやりと発光しながら背後の暗闇から浮かび上がるように描かれ、記憶や夢の中のイメージのように淡い光をまとっている。
図式的な見方をすれば、真っ二つにされたリンゴの断面は子宮を思わせ、真正面から描かれた牡鹿の角は男性器の暗喩であり、ベッドに横たわる人の上に浮遊するもつれ合った人体は性的な夢を暗示し、神前結婚式の花婿と花嫁の肖像が、その欲望の帰結として描かれる。しかしそれらは、私たちを脅かす抑圧された夢の昏(くら)さというよりは、暗闇を照らすほの明かりのように、生を祝福し肯定するような、柔らかな光に包まれている。

2016/04/16(土)(高嶋慈)

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