2022年01月15日号
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artscapeレビュー

渡辺眸「Tenjiku」

2013年11月15日号

会期:2013/09/06~2013/10/12

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

渡辺眸は鈴木清(1943年生まれ)とほぼ同世代の1942年生まれ。本展でも、彼女が1970年代に撮影した「ヴィンテージ・プリント」がまとめて展示されていた。写真家が被写体を撮影してから、あまり間を置かずにプリントされた印画を、希少性を鑑みて「ヴィンテージ・プリント」と称するのだが、最近はその価値が広く認められ、販売価格も上がりつつある。あまり偏重しすぎるのも考えものだが、確かに「ヴィンテージ・プリント」は魅力的ではある。今回の渡辺の展示でも、やや色褪せ、黄ばんだ風合の印画紙が、過ぎ去って降り積もっていく時の象徴のように、燻し銀の輝きを放っていた。
タイトルの「Tenjiku(天竺)」は言うまでもなくインドの古名だが、どこか魔法めいた響きがある。渡辺は1970年代によくインドを訪れ、前半(1972~73年)は主にモノクロームで、後半(1976年~)はカラーでスナップショットを撮影していた。渡辺の写真のなかにも、魔法がかかっているような場面がたくさん写っている。牛、山羊、鴉やニワトリ、象などの動物と人間たちの世界は渾然一体になっており、そこでは人間は動物のように、動物は人間のように見えてくるのだ。
そのような神秘的、アミニズム的な雰囲気は、どちらかと言えばモノクロームの写真の方に色濃い。カラーになると、生活感、現実感が増してくるように思える。だが、より体温に近い状態で撮影されたカラー写真のインドの光景にも、また違った面白さがある。光と闇の両方の側から湧き出てくるような色彩が、みずみずしい生命力で渦巻き、流れ出てくるからだ。

2013/10/04(金)(飯沢耕太郎)

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