2021年12月01日号
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artscapeレビュー

写真家 中村立行の軌跡──モノクロの昭和/ヌードの先駆

2013年11月15日号

会期:2013/10/19~2013/11/06

O美術館[東京都]

中村立行(りっこう、1912-95)の名前を知る人は、もうあまりいないだろう。だが、私が写真評論の仕事をし始めた1980年代には、彼はいまだ健在で、『アサヒカメラ』のようなカメラ雑誌にユニークな作品を発表していた。今回の展示は、その中村の初期から80年代に至る代表作約200点を集成したものである。丁寧に編集されたカタログも含めて、日本の写真表現の歴史にユニークな足跡を残したこの写真家に、こうしてスポットが当たるのは素晴らしいことだと思う。
中村立行と言えば、真っ先に思い浮かぶのは1940~50年代に制作・発表されたヌード写真である。1936年、東京美術学校油画科卒業という経歴を活かした、フォルマリスティックなアプローチは、日本のヌード写真の歴史に新たな時代を画するものだった。だが、今回の展示でむしろ大きくクローズアップされたのは、第二次世界大戦中から戦後にかけて精力的に撮影された「モノクロの昭和」の写真群である。学童疎開、焼け跡・闇市の時代をしっかりと見つめ、的確な技術で記録した写真群は、林忠彦の「カストリ時代」に匹敵する貴重な歴史的資料と言える。
もうひとつの重要な仕事は、1973年にキヤノンフォトサロンで展示された「路傍」である。広角レンズで、道端のさまざまな情景を切り取っていくこのシリーズを、中村本人は「モク拾い写真術」と称している。特定の主題にこだわることなく、路上をさまよいながら、琴線に触れる情景を拾い集めていくスタイルは、同時代の「コンポラ写真」にも通じるものがある。60歳代という年齢を感じさせないういういしい、だが強靭な視線が印象的だ。本展では、実際にキヤノンフォトサロンに展示されたパネル貼りのプリント30点が、そのままの形で並んでいて、フレームにおさまったほかの作品にはない、ざらついた手触り感が異彩を放っていた。

2013/10/29(火)(飯沢耕太郎)

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