2021年12月01日号
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artscapeレビュー

須田一政「凪の片(なぎのひら)」

2013年11月15日号

会期:2013/09/28~2013/12/01

東京都写真美術館 2階展示室[東京都]

須田一政のような写真家の作品を見ていると、どうしてこのような光景を確実に捉えることができるのかと不思議に、というよりは不気味に思えてくる。見慣れた眺めの中に見慣れぬ異界を嗅ぎ当てる能力なのだが、その確率があまりにも高いことに驚きを抑えきれなくなってくるのだ。やはり、何かこの世ならざるものを「呼び込む」力が異様に高いとしか言いようがないだろう。
今回の東京都写真美術館の展示は、須田の代表作を集成した本格的な回顧展である。よく知られている「風姿花伝」をはじめとして、「物草拾遺」「東京景」など、1970年代に6×6判のフォーマットで撮影したモノクロームプリントがひしめき合うように並ぶ。嬉しいのは、まだ写真家として本格的に活動し始める前の1960年代に撮影された「恐山へ」と「紅い花」のシリーズが展示されていることだ。35ミリ判から6×6判への移行期に撮影されたこれらの写真群にも、すでに背筋をゾクゾクとさせるような気配を発する異物を、的確につかみ取っていく能力が充分に発揮されていたことがよくわかる。
なんといっても圧巻なのは、会場の最後のパートに展示されていた新作の「凪の片」のシリーズ。以前は被写体を剃刀のように鋭く切り裂いていた視線の強度がやや弛み、そのことによって、逆に形を持たない何やら魑魅魍魎のようなものたちの気配が、画面の至る所からわらわらと湧き出してきているように感じる。いや、もはや須田一政その人が、なかば魑魅魍魎と化しているのではないだろうか。怖い。だが、知らず知らずのうちに引き込まれていく。

2013/10/06(日)(飯沢耕太郎)

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