artscapeレビュー
鈴木清「流れの歌 夢の走り」
2013年11月15日号
会期:2013/09/27~2013/10/26
タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]
2000年に亡くなった鈴木清の写真の仕事は、2008~09年にオランダ、ドイツを巡回した「Kiyoshi Suzuki: Soul and Soul 1969-1999」展や、2010年に東京国立近代美術館で開催された「鈴木清写真展 百の階梯、千の来歴」展によって、彼の生前の活動を知らない世代にも受け入れられつつある。今回のタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムの個展では、最初の写真集である『流れの歌』(1972)、およびグラフィック・デザイナー、鈴木一誌と組んで写真集づくりに新たな局面を見出していった『夢の走り』(1988)収録の写真が展示されていた。
今回特に重要なのは、写真集には収録されなかった作品が、「ヴィンテージ・プリント」として展示してあったことだ。たとえば、『流れの歌』の表紙にも使われている、洗面器の底に貼り付いたつけ睫毛の写真のヴァリエーションと思われる作品がある。上下2枚の写真が組み合わされていて、上には虫眼鏡で拡大したメンソレータムの容器が、下には洗面器と髪を洗う女の姿(当時同居していた妹さんだろう)が写っている。いかにも鈴木らしく、身の周りの状況を独特の角度から切り取ったいい作品だが、僕の知る限り、この写真は雑誌等にも未発表のはずだ。おそらく鈴木が写真集を編集する段階で候補作としてプリントし、最終的には使用しなかったものだろう。
このような写真が出てくるのは嬉しい驚きだが、反面やや心配なのは、鈴木の仕事の全体像がまだ確定していないこの時期に、プリントとして販売されてしまうと、今後のフォローが難しくなるのではないかということ。とはいえ、展示を積み重ねていくことで見えてくることもたくさんあるはずで、より若い世代のなかから、彼の写真をしっかりと検証していく動きがあらわれてくるといいと思う。
2013/10/04(金)(飯沢耕太郎)