2020年01月15日号
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artscapeレビュー

石井陽子「境界線を越えて」

2016年02月15日号

会期:2016/01/05~2016/01/19

銀座ニコンサロン[東京都]

石井陽子は1962年山口県生まれ。2005年に「マダガスカルのキツネザルを撮りたくて一眼レフを衝動買い」したことから、国内外を旅して動物写真を撮影するようになる。それだけなら、どこにでもいるアマチュア写真家の趣味の世界だが、2011年に「鹿を撮る」というテーマに巡りあったことで、取り組みの姿勢が大きく変わった。それが今回の銀座ニコンサロンでの初個展にまで結びついた。
日本全国に約250万頭棲息しているという鹿は、日本人にとって特別な意味を持つ動物である。奈良の春日大社や宮島の厳島神社の周辺では「神の使い」として手厚く保護され、観光資源としても活用されている。だが、ほかの地域では農作物を食い荒らす「害獣」として扱われ、年間20万頭近くが狩猟で捕えられ、27万頭以上が「駆除」されているという。石井は同じ種の生きものが、その二つの社会的領域のあいだの「境界線を越えて」存在していることに強い興味を抱いて撮影を続けてきた。今回の展示では、奈良と宮島の鹿たちが、都市空間と共存している状況に絞って会場を構成している。その狙いは、とてもうまくいったのではないだろうか。ビル街を自由に闊歩したり、港の近くに佇んだりする鹿の姿は、見る者にかなりシュールな驚きを与える。あえて人間の姿をすべてカットしたことで、「人の消えた街を鹿たちが占拠する日を夢想する」という彼女の思いが的確に伝わってきた。今後は「境界線」の向こう側、「害獣」として「駆除」されている鹿たちの姿をどのように捉えていくかが課題となってくるだろう。
なお、展覧会にあわせて写真集『しかしか』(リトルモア)が刊行された。祖父江慎のデザイン・構成は、やや生真面目な雰囲気の写真展と違って遊び心にあふれている。これはこれで、なかなかいいのではないだろうか。

2016/01/06(水)(飯沢耕太郎)

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