artscapeレビュー
須田一政「民謡山河」
2016年02月15日号
会期:2016/01/05~2016/01/31
JCIIフォトサロン[東京都]
「民謡山河」は『日本カメラ』に1978年から2年間にわたって連載されたシリーズである。各地に伝えられた民謡や祭礼をテーマに、写真評論家の田中雅夫(濱谷浩の実兄)が軽妙洒脱な文章を綴り、須田一政が写真を撮影した。富山県越中城端の「麦や節」を皮切りに、全国22府県、24カ所を巡るという力の入った企画で、須田にとっては、初期の代表作である『風姿花伝』(朝日ソノラマ、1978)から、より普遍的な「起源にある視覚」(M・メルロ=ポンティ)を探求した『人間の記憶』(クレオ、1996)に向かう過程に位置づけられる重要な作品といえる。
今回展示された70点は、掲載された写真のネガの多くが見つからず「手元に残るプリントの中から選んだ」ものだという。「民謡山河」の全体像を再現することはできなかったが、逆にこの時期の須田の、6×6判のフレーミングに目の前の事象を封じ込め、魔術的ともいえるような生気あふれる空間に変質させてしまうイメージ形成の手腕を、たっぷりと味わい尽くすことができた。また撮影時から40年近くを経て、須田自身が「その時代と民謡を守る人々の姿に日本の根っこのようなものを感じてもらえれば」と書いているように、失われた世界の記録としての意味合いも強まっているように感じた。風土と人間が緊密に結びつき、地域社会のコミュニティがいきいきと機能していた時代が、ちょうどこの頃に終焉を迎えつつあったことが、感慨深く伝わってくるのだ。
2016/01/07(木)(飯沢耕太郎)