artscapeレビュー
渡辺眸「『旅の扉』~猿・天竺~」
2016年02月15日号
会期:2016/01/08~2016/01/24
アツコバルー[東京都]
渡辺眸は1968年に東京綜合写真専門学校を卒業後、東大全共闘や新宿のアングラ・ムーブメントを撮影したあと、1972年からアジア各地を旅しはじめる。今回のアツコバルーでの展覧会では、1970年代から90年代にかけてインド・ネパールで撮影された「天竺」と、ネパールのモンキーテンプルで猿たちと出会ったことで、日本各地でも撮影するようになった「猿」の2シリーズが展示されていた。
渡辺の「天竺」には、不思議な時間が流れているように見える。普通、旅の途上で撮影された写真には、ある種の寄る辺のなさを含み込んだ「通過者の視線」があらわれてくるのではないだろうか。移動のあいだにふと目にとめた事象が、一瞬ののちには消え失せてしまうような儚さがつきまとうということだ。ところが、渡辺の写真に写っている人も動物も風景も、「永遠」といいたくなるような長い時間、そこに留まり続けているように見える。渡辺と被写体との無言の対話の時間が、そこに封じ込められているように思えてくるのだ。それは「猿」シリーズでも同じことで、ネパールや日本各地で撮影された猿たちも、明らかに「永遠」の相を身に纏っているようだ。
今回の展示には、1998年にプリントされたという大伸ばしのデジタル・プリント13点も展示されていた。会場構成のアクセントとしてうまく効いていたのだが、現在のデジタル・プリントと比較するとかなり画像の精度が落ちる。ただ、そのモアレ状になってしまったドットが、逆に面白い視覚的効果を生んでいた。20年近く前のデジタル・プリントが、すでヴィンテージ・プリントとして機能し始めているというのが興味深い。
2016/01/08(金)(飯沢耕太郎)