2020年04月01日号
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artscapeレビュー

野村浩「Invisible Ink」

2016年02月15日号

会期:2015/12/16~2016/02/06

POETIC SCAPE[東京都]

「青い魔法のインク」という異名を持つ「Invisible Ink」とは、「イギリスArgletonに住むWilliam Louisが、銀塩の技術が衰退し、デジタル化が進む今日に、写真の魔法を取り戻すことをねらって再製品化したインク」だという。会場のガラス戸棚には、Louis氏の祖父が開発したという、そのインクの製品見本や使用説明書、プリントのサンプルなどが並べられていた。
正体を明かせば、この「Invisible Ink」なるものは、野村浩の創作物である。野村はこのところ、フィクションとノンフィクションの境界を行ったり来たりする作品を発表し続けているが、今回もその延長上の仕事といえる。いつもながら手の込んだ仕掛けで、写真史の知識がないとつい騙されてしまうこともありそうだ。
だが、問題はむしろその仕掛けよりも、「Invisible Ink」(実際にはサイアノタイプ)の技法によって定着されたイメージのほうではないだろうか。野村はかつて、街中でゴッホの自画像が印刷されたチラシを目にして「生身のゴッホが立ちあらわれたようで、ゾッとした」ことがあるという。その体験を再現するために、ゴッホの画集に収録された自画像を全部複写し、そのいくつかをサイアノタイプでプリントした。それら、ぼんやりと心霊写真のように浮かび上がる、異様に歪んだ顔のイメージは、たしかに強烈な喚起力を備えている。それだけでも充分と思えるほどだが、「Invisible Ink」というフィクショナルな要素を重ね合わせることで、画像のリアリティが逆に強化されているように見えるのが興味深い。それにしても、野村の奇妙なアイディアを次々に思いつく才能には、いつも驚かされる。

2016/01/09(土)(飯沢耕太郎)

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