2021年12月01日号
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artscapeレビュー

写真と民俗学 内藤正敏の「めくるめく東北」

2009年11月15日号

会期:2009/10/03~2009/11/08

武蔵野市立吉祥寺美術館[東京都]

写真家という人種には変人が多いが、内藤正敏はその中でも極めつけの一人。何しろ羽黒山で修験道の修業をして山伏の資格を持っているのだ。写真家としてもユニークな仕事ぶりが知られているが、むしろ民俗学の世界でその業績が高く評価されている。『遠野物語』の「山人」の描写を、山中を漂泊する金堀り師やタタラ師の活動と重ねあわせた「金属民俗学」、江戸や日光の寺院の配置を呪術的な都市計画として読み解く「徳川マンダラ」など、そのスケールの大きさとイマジネーションの広がりには驚くべきものがある。
今回の武蔵野市立吉祥寺美術館の展示は、その内藤の写真と民俗学の交叉のあり方を探ろうとするもの。薬品の化学反応を造形写真に応用した「コアセルベーション」「白色矮星」といった初期作品から、1960~70年代の「婆バクハツ!」「遠野物語」などを経て、80年代の「出羽三山の宇宙」に拡大し、近作の山岳信仰の世界を写真によって定着しようとする「神々の異界」に至る作品の流れを辿ることができた。全27点と数は少ないが、大きく引き伸ばされた写真から、あの話し出したら止まらない内藤のマシンガン・トークが聞こえてきそうな、活気あふれる展示だ。「私にとって、写真がモノの本質を幻視できる呪具であるとすれば、民俗学は見えない世界を視るための“もう一つのカメラ”だ」。彼の写真と民俗学に対する姿勢は、この言葉に尽きるだろう。「シャーマンとしての写真家」の原点というべきその存在感は、ますます大きなものになってきている。

2009/10/12(月)(飯沢耕太郎)

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