artscapeレビュー

尾形一郎/尾形優「HOUSE」

2009年11月15日号

会期:2009/10/16~2009/11/02

FOIL GALLERY[東京都]

尾形一郎(当時は小野一郎の名前で活動)が以前発表した「ウルトラバロック」のシリーズは、なんとも印象深い作品だった。メキシコの教会内部の、目がくらくらするような過剰な装飾を、8×10カメラで緻密に記録した建築写真のシリーズである。それから10年あまりが過ぎ、奥さんの尾形優と共作したのが今回の「HOUSE」で、「ナミビア:室内の砂丘」「中国:洋楼」「ギリシャ:鳩小屋」の3シリーズが展示されていた。砂に埋もれつつあるダイヤモンド鉱山で栄えたナミビアのゴーストタウン、海外で稼いだお金で中国の片田舎に建てられた洋風建築、ギリシャ正教の聖地であるティノス島の素朴な作りの鳩小屋という、かなり珍しい被写体を扱っている。
その目のつけどころが、いかにも一級建築士の資格を持つ「ウルトラバロック」の作者らしい。有名建築家の作品ではないが、その土地固有の様式と奇妙にねじ曲がったイマジネーションが混淆した、バロック的な建築群。ヴァナキュラーな様式美への徹底したこだわりと、建築家の視点でしっかりと構築された画面構成が融合していて見応えがある。人が家を建てて住むという行為が、たとえば言葉で何かを表現するのと同じように、単純素朴なストレートな形ではおこなわれないこと、そこに何かしら過剰な身振りが付け加えられ、思っても見なかった方向に伸び広がっていくことを、これらの写真は教えてくれる。
なお、同時に刊行された写真集『HOUSE』(FOIL)は、展示された3シリーズに「沖縄:構成主義」「メキシコ:ウルトラバロック」「日本:サムライバロック」のパートを加えて構成されている。沖縄の基地の周辺のコンクリート住宅群にロシア構成主義の要素を見出したり、日光東照宮と霊柩車が共通の美意識によって作られているのを発見したりする、スリリングな眼の愉しみを味わわせてくれる写真集だ。

2009/10/16(金)(飯沢耕太郎)

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