artscapeレビュー

清野賀子『至るところで 心を集めよ 立っていよ』

2009年11月15日号

発行所:オシリス

発行日:2009年9月19日

自ら命を絶ってしまったという清野賀子の遺作写真集。前作の『THE SIGN OF LIFE』(オシリス、2002年)からは、もう一つその立ち位置、狙いが伝わってこなかったのだが、この写真集からは差し迫った心の動き、これを見せたいという思いが伝わってくる。揺らぎ、傾き、歪み、間隙といった要素が強まり、特に散在するヒトの写真に痛々しさを感じないわけにはいかない。
あとがきにあたる文章に「もう『希望』を消費するだけの写真は成立しない。細い通路を見出して行く作業。写真の意味があるとすれば、『通路』みたいなものを作ることができたときだ。『通路』のようなものが開かれ、その先にあるものは見る人が決める。あるいは、閉じているのではなく、開かれているということ」とある。だが文章の最後は「それでもあきらめず、『通路』を見出し続けることが大切。いや、大切とすら本当は思っていない」と書く。このような「希望」と「絶望」の間を行ったり来たりしながら、消しゴムで消すように最後は「希望」をぬぐい去ってしまう身振りが、写真集全体にあらわれているのだ。でも僕は、この写真集では、「見る人」に向けられた「通路」はきちんと確保されていると思いたい。なお、印象的なタイトルは、ドイツの詩人、パウル・ツェランの詩「刻々」から採られている。

2009/10/18(日)(飯沢耕太郎)

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