artscapeレビュー
金城信吉《風樹館》
2009年11月15日号
[沖縄県]
竣工:1985年
金城信吉氏(1934-1984)は、沖縄を代表する建築家である。風樹館は金城氏の最後の作品であり、琉球大学校内に建てられた資料館。丸みを帯びた煉瓦張りの壁に近づくと、荒々しい割肌が見えてくる。割肌といっても、ここまで荒いものはなかなか見ない。ゆるくうねった外壁は、グスク(城)に触発されたものであろう。後にいくつかのグスクを見て、石垣がゆるやかな曲面で構成されていることを知った。エントランスの立体的な窪みは印象的で、日本では滅多に見ない建築言語であると思ったが、イスラム建築のイーワーンと呼ばれる半屋外空間に近い。金城は旅行好きで、東南アジアを多く旅行したというから、マレーシアかインドネシア辺りで見かけているのだろうか。エントランスホールでは「ひんぷん」と呼ばれる沖縄の民家の目隠しを用いているなど、琉球建築のエレメントが随所に用いられており、最初は白井晟一を思い出したのであるが、建物をめぐるうち、金城氏の中に沖縄の建築が血肉化されているのだと知った。金城氏については、この建築を見るまでほとんど知らなかったのであるが、沖縄の現代建築の第一世代であるらしい(入江徹氏談)。その後が真喜志好一ら、そして琉球大学建設工学科の初期に教鞭を執った仙田満の影響を受けた建築家が現われてきているという。
2009/10/27(火)(松田達)