2021年10月15日号
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artscapeレビュー

会田誠『いまさら北京』

2009年12月15日号

発行所:大和プレス(発売=ユトレヒト)

発行日:2009年7月11日

会田誠が序文でこんなことを書いている。「私は芸術家として普段、何か『特別なもの』を作ろうとしている。特別に美しいもの、特別に醜いもの、特別に激しいもの、特別に穏やかなもの・・・等々」。ところが時々それが「悪い行為」に思えることがあるという。「この世のものはすべて特別だ、という意味で、この世に特別なものなんて一つもない」。にもかかわらず、さもそれらを「特別なもの」としてパッケージして提示する行為は、「悪しき詐術」ではないのかというのだ。
そこで会田が何をやったかというと、たまたまグループ展に参加するために一カ月ほど滞在した北京郊外の草場地付近の雑多な光景をカメラに収め、プリントしてこの一冊の写真集にまとめることだった。たしかに、ここに写っているなんとも散文的な都市とその近郊の眺めは「特別なもの」とはいいがたい。日本にはないローカルカラー(たとえば今はもう使われなくなった練炭の燃え滓、妙に派手なビニールシート等)を感じる場面もあるが、その大部分はごく見慣れたアジアの片隅の光景だからだ。
にもかかわらず、これらの糞も味噌も一緒になったようなごった煮状態の眺めが、奇妙な微光を発して目に食い込んでくるように感じるのはなぜだろうか。「特別なもの」を徹底して排除して作られているはずの写真集にもかかわらず、思わずページを繰る手を止めてじっと見入ってしまうような写真がたくさんある。これもまた会田誠の「悪しき詐術」の見事な作例なのか。なお、歌謡曲のような『いまさら北京』は日本語のタイトルで、英語のタイトルは『Beijing behind the ART』である。

2009/11/12(木)(飯沢耕太郎)

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